ガン免疫の主役はCD8陽性キラーT細胞で、抗原ペプチドとClass I MHC抗原複合体を認識する。ただ、ガンによってはClass II MHCを発現することもありその場合はCD4T細胞もキラー細胞として働く可能性が考えられてきた。以前紹介したCAR-T治療により10年を超えて全く再発がなかったケースで、残存していたCAR-TがCD4陽性だったという結果はこの例かも知れない。
これ以外に、CD4T細胞は炎症を誘導し、またインターフェロンを分泌してガンを殺すことも知られている。従って、免疫治療を考える時、CD4T細胞もうまく位置づけてやるとより強力なガン治療になる可能性がある。
今日紹介するドイツ・マグデブルグ大学からの論文は、Class I 抗原とインターフェロンシグナル系をノックアウトされたCD8キラー細胞でも、インターフェロンでも、殺せないメラノーマ細胞が、それでもCD4T細胞で殺すことが出来る仕組みを示した研究で、6月16日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「CD4 + T cell-induced inflammatory cell death controls immune-evasive tumours(CD4+T細胞により誘導される炎症細胞死が免疫を回避した腫瘍を殺す)」だ。
まず臨床のメラノーマ例組織から、CD8T細胞の浸潤が落ちている腫瘍ではClass I抗原の発現が低下していること、それでも組織中のClass II 抗原発現が高いと、CD4、CD8ともに細胞浸潤が高いことを確認し、Class I が低下してCD8キラー細胞の作用がなくなる条件をマウスモデルで再現している。
この時自然免疫を誘導するアジュバントとともにCD4T細胞が存在すると、ほぼガンを殺すことが出来、これにはCD8T細胞も、NK細胞も必要ないことを様々な実験で示している。この辺の過程は、少し前のノックアウトマウスを組みあわせた免疫学の実験の伝統を汲んでおり、複雑な実験の組み合わせをお行っている。
次に組織学的に腫瘍組織でのCD4T細胞の動態をビデオで調べ、組織中のClass II発現細胞と相互作用することでキラー活性を発揮していること突き止める。この場合、インターフェロンが分泌され抗ガン作用が発揮すると考えられるが、この実験系では腫瘍細胞はインターフェロンに反応しないので、他の細胞を介して抗ガン作用が発揮されている可能性が高い。
このガン傷害性のメカニズムを様々な遺伝子改変マウスや機能阻害抗体を用いて探っているが、結論をまとめると次のようになる。
まずCD4T細胞はClass II抗原を発現しガン抗原をプロセスする樹状細胞と反応し、その結果インターフェロンを分泌する。これと自然免疫シグナルが組み合わさって、Ly6陽性白血球がガン組織にリクルートされ、局所でiNOSを強く発現する白血球へと分化する。局所ではガン特異的ではないが、炎症が誘導されており、インターフェロンγやTNFレベルが高まっているので、これに高い濃度のNOを局所で合成するiNOSが加わると、これが直接腫瘍に働いて細胞を傷害するというシナリオだ。
実際にはメラノーマ以外でも同じことが起こるのかなど不明な点も多いし、実験自体が極めて凝っているので、臨床に移して考えにくいという問題はあるが、しかしCD4T細胞を再評価し直しガン治療に組み込むことの重要性はよくわかる論文だ。
CAR-T治療により10年を超えて全く再発がなかったケースで、残存していたCAR―TがCD4陽性だった!
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CD4+T細胞にも抗がん作用あり。