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6月18日 細胞周期の通説を見直す(6月8日号 Cell 掲載論文)

2023年6月18日
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細胞が増殖するためには、DNA合成から細胞の分裂までを巧妙に調節する必要があり、増殖期はいくつかのステージに分けて調節されて、これらを細胞周期と呼んでいる。各細胞周期に関わる分子は、酵母から人間まで、真核生物では共通なものが多く、中でもサイクリンおよびサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の機能は詳しく解析されてきた。事実、専門以外の人の興味を引くという観点で選ばれるトップジャーナルではサイクリンやCDKの論文を見る事が少なくなった。

しかし細胞周期はガン増殖にとっても一丁目一番地なので、この分野の研究は重要だ。専門外の私には少し遅かったのではという印象があるが、CDK4/6阻害剤は現在乳ガンの重要な治療薬として利用されている。ここで標的になっているCDK4/6はサイクリン-Dと結合して、細胞がDNA合成期に移行する時に必須の分子で、DNA合成期への移行を阻害しているRB1をリン酸化して、E2Fの核内移行を促し、合成期に必要なサイクリンEやサイクリンAの転写を活性化し、細胞周期を進める。

今日紹介するコロラド大学からの論文は、このサイクリンおよびCDKネットワークに関する通説の間違いを、single cell level でこのネットワークの活性をモニターし、現在開発中のものも含め様々な阻害剤を調べる実験系で示し、新しいガン治療の方向性を示した研究で、6月8日号の Cell に掲載された。タイトルは「Rapid adaptation to CDK2 inhibition exposes intrinsic cell-cycle plasticity(CDK2阻害に対する迅速な適応が細胞周期の可塑性を明らかにした)」だ。

すでに、サイクリンD/CDK4/6活性化が、E3Fを介してサイクリンAやサイクリンEの転写を促進する御頃までは述べたが、サイクリンA、 サイクリンEは、CDK2と結合して、合成期に必要な様々な分子をリン参加する事がわかっている。したがって、CDK4/6とともに、CDK2も重要な細胞周期抑制の標的になる。しかし、ノックアウト実験では、他のCDKにより代償されるため、CDK2阻害は考慮されてこなかった。

この研究では、CDK2/サイクリンA/Eによりリン酸化される分子マーカーを導入した細胞を、他のCDKに影響がないレベルのCDK2阻害剤で処理すると、最初はマーカーのリン酸化が低下するが、10時間するとすぐに元に戻ることを発見する。この現象は、CDK4/6も阻害される濃度では見られないので、CDK2が急性に阻害された時、CDK4/6が合成期でも働いて、CDK2の機能を促進する可能性を示し、CDK4/5はG1期特異的という疑問を投げかけた。

これまでの実験では、遺伝的ノックアウトを用いた手法が中心で、CDKの複雑な代償回路のため、重要な過程が見えないまま終わっていた。したがって、single cell level で周期を追跡しながら、薬剤で各分子を阻害する実験で、通説とは全く異なる可能性が示された事が、この研究のハイライトになる。

CDK2が阻害された時に、CDK4/6が合成期でもCDK2の活性を助けるとすると、CDK2特異的阻害にCDK4/6特異的阻害を組み合わせると、S期も強く抑制できる事が予想され、これを実験的に確認し、特殊な条件でCDK4/6が合成期の細胞周期に関われる可能性を示している。

このメカニズムを生化学実験を組み合わせて調べ、最終的に以下のようなシナリオを提案している。

まずCDK2阻害剤による阻害は完全でなく、またCDK2阻害剤はサイクリンE/CDK2複合体をサイクリンA/CDK2複合体より強く阻害する。このため、CDK2阻害で、最初サイクリンD/CDK4/6からのバトンタッチがうまくいかず、Rb1リン酸化が低下して合成期のネットワークが動かなくなると、サイクリンD/CDK4/6が合成期も働き始めて、阻害剤に比較的抵抗性のサイクリンA合成を続けることで、合成期のRB1リン酸化や他の分子のリン酸かが正常に進んでしまう。したがって、合成期でもCDK4/6を阻害することで、完全にRb1リン酸化を止めて、細胞周期をG1からS期まで阻害できることになる。

サイクリンのネットワークに慣れていないと、ちょっとややこしい話だと思うが、今後サイクリン阻害剤を乳ガンはもとより、他のガンに広げる意味でも重要な研究だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    CDK2特異的阻害にCDK4/6特異的阻害を組み合わせると、S期も強く抑制できる。
    imp.
    新たな抗がん剤治療戦略のヒントか!?

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