ピーナツや卵に対するアレルギーを、腸管免疫発達の早い段階で抗原を摂食させて免疫寛容を誘導して防ぐ治療法が試みられている。この背景には、幼児ではこの方法で抑制性T細胞が誘導されるからとされている。
今日紹介するイエール大学と中国科学技術大学からの論文は、細胞死のエフェクター分子として知られgasderminの一部が転写活性因子としてClass II MHC(MHC II)を誘導し、局所のIL10分泌Tr1細胞を活性化して免疫寛容を誘導するという、にわかには信じがたい結果を示した研究で、6月15日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Gasdermin D licenses MHCII induction to maintain food tolerance in small intestine(Gasdermin DはMHC II の誘導に関わり消長での食品トレランスを維持している)」だ。
ちょっとおさらいしておくと、gasderminはインフラマゾームにより活性化されたカスパーゼ3により2つの断片に分かれ、N末端側が膜状に穴を開けることで、ピロプトーシスを誘導する。
おそらく腸上皮のピロプトーシスを調べていたのだろう。小腸から大腸まで切断後のgasderminを調べると、小腸のみでこれまで知られていなかった13kDのN末端断片(13N)が生成されていることに気づいた。さらに驚くことに、13Nは蛋白性の食事をしたときのみ誘導され、アミノ酸に変えると誘導されなくなる。すなわち、13Nは蛋白性の食品により小腸上皮のみで誘導される。
そこで、13Nを切り出すカスパーゼを特定し、卵白アルブミン(OVA)モデルを用いて生化学的に調べると、なんとOVA由来のペプチドが一つのコンプレックスを形成することがカスパーゼを活性化して13Nを切り出すことがわかった。食べた蛋白質のペプチドが細胞内でカスパーゼを活性化するなど前代未聞のことで、自然免疫を活性化するのではと心配するが、ピロプトーシスは誘導しないようだ。
さらに驚くのは、切断された13Nは核移行シグナルは持っていないが、いくつかの核膜蛋白と相互作用し、速やかに核に移動し、転写因子の一つSTAT1と直接結合し、MHCIIと繊毛形成に関わる分子Ciitaの転写を高める。
この結果、小腸上皮のみMHCIIと食品蛋白質由来のペプチドが細胞表面に提示され、これも驚くのだが抑制性Tとは少し異なっているが、免疫を抑えるIL10を分泌するTr1細胞を誘導し、蛋白抗原に対する食事アレルギーを防ぐ。
実際、gasderminから13Nが切り出せない変異を誘導すると、ピロプトーシスは起こるが、アレルギーの発生が起こりやすくなる。勿論これまで考えられてきた樹状細胞と抑制性T細胞も働いているが、小腸上皮が食品とともに第一線の防御線を張っているという驚くべきシナリオだ。
食品のペプチドによるカスパーゼの活性化、gasderminの異なる切断様式と13N発生、13NとSTAT1の直接相互作用、そしてTr1特異的誘導など、通常起こりにくいと思われる条件が全て起こって、食品に対するアレルギーを防いでいるという話で、今でも信じがたい。
これまで考えられてきた樹状細胞と抑制性T細胞も働いているが、小腸上皮が食品とともに第一線の防御線を張っている!!
Imp:
小腸上皮がアレルギー反応に積極的に関与していたとは。。