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6月27日 タンザニア Hadza 族細菌叢から明らかになる都会の生活(6月21日号 Cell オンライン掲載論文)

2023年6月27日
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腸内細菌叢の多くは環境の影響を受けているので、田舎と都会にすむ人々の細菌叢を比べ、都会生活環境の問題を指摘する研究が盛んに行われてきたが、この究極が、未開の生活をしている民族の細菌叢と都会人の細菌叢を比べる研究で、都会生活だけでなく、人類の歴史と細菌叢の関係までカバーする壮大な研究だ。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、未開人と都会人の細菌叢を比べた一種の究極とも言える研究で、ともかく細菌叢のDNAの配列をほぼ10兆塩基対解読している。タイトルは「Ultra-deep sequencing of Hadza hunter-gatherers recovers vanishing gut microbes(Hadza狩猟採取民の細菌叢を超ディープに解析することで失われた細菌をリカバーできた)」で、6月12日 Cell にオンライン掲載された。

10兆塩基対というと、300人の人間ゲノムに相当するので、シークエンサーで解析して解読するだけでも大変な仕事になる。実際、DNAは2013年から1年かけてタンザニアで集められ、今論文が発表されていると言うことは、解析だけにほぼ10年を要する大変な研究と言える。

未開人の細菌叢に現代人が失った様々な自然との関わりが存在するという強い信念がないと、こんな研究は出来ない。読んでみると、これまでの研究の結論と基本的には同じだが、しかしインパクトは大きい。

  1. まずHadza属の細菌叢は驚くほど豊かで、細菌、古細菌、ファージ、そして真核生物、いずれも多様性が高い。徹底的にシークエンスしているので、なんと食べている昆虫のゲノムまで出ている。
  2. ネパールの狩猟採取民や、農耕民、そしてカリフォルニア人の細菌叢と比べると、未開から都会まで多様性は失われていく。事実Hadza属では730種の細菌が存在するが、ネパールの狩猟採取民では436に低下、そしてカリフォルニア人では277種類になる。
  3. この結果は、Hadzaの便はこれまで知られていない新しい細菌や古細菌の宝庫になっていると言うことで、これほど徹底的にゲノム解析をすると、カリフォルニア人でもこれまで知られていない細菌種を発見できるが、Hadzaで発見される細菌の数はその比ではなく、割合の多い最近でも3%が新種。頻度の低い細菌となると4割が新種になっている。また、これらを培養で分離する可能性も示しており、今後が楽しみになる。
  4. 特定できた細菌の系統樹を作成すると、それぞれの種の中でもHadzaと他の地域では、系統として完全に分かれており、人的交流がないと、各地域で独自に細菌叢が発展している事がわかる。
  5. こ細菌を都会特異的、および未開特異的な群に分ける事ができるが、4)で述べたように、人的接触がないと独立して形成され、例えば世界中の未開特異的細菌を特定することは難しいが、唯一スピロヘータの一種Treponema succinifaciensは例外で、未開特異的な細菌として広く分布しており、おそらく人類がアフリカから出て数万年の歴史を刻んでいる可能性がある。
  6. 配列決定の進度を高める事で、同じゲノム部位の変異を特定する事が可能になる。この変異を、アミノ酸が置換される変異と、そうでない変異に分けてその比を調べる事で、選択圧や増殖性を調べることができる。この結果、Hadzaでこれまで知られている細菌叢の季節変化は、それぞれのバクテリアの増殖が環境により変化することに起因する事が明らかになった。

以上、他にも様々な面白い話があると思うがここまでにする。しかし、サンプリングした後の解析の十年を想像すると、大変な研究だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    Hadzaと他の地域では、系統として完全に分かれており、人的交流がないと、各地域で独自に細菌叢が発展している.
    Imp:
    細菌叢もガラパゴス的進化をするようです。

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