生命科学は今やCRISPR/Casなしに考えられないようになってきたが、これはRNAガイドによりCas分子をゲノムの思った場所にリクルートできるという、とてつもない技術的進歩のおかげだ。さらに、Cas分子自体が示す多様性のおかげで、Cas9のような標的DNA切断にとどまらず、RNAを含む様々な標的を編集できる様になり、新しいCas活性を探す研究が加速している。
このようなCas多様性についての研究は、2021年自身のゲノムにコードしたRNAをガイドRNAとしてDNAを切断するTnpBが特定されてから、Cas以外にもRNAをガイドとして特異的に遺伝子を編集する分子の存在についての確信となって大きな転換点を迎えた。特に今年になって東大・濡木さんの研究室により解読されたTnpBの構造はCRISPR/Casと比べてよりコンパクトな遺伝子編集システムが可能であることを明らかにした。
今日紹介するMITのBroad研究所からの論文は、TnpBに相同性を持つファミリー分子を追求し、なんと真核細胞にもRNAガイドを用いる遺伝子編集システム分子が存在すること、そしてその構造と機能を明らかにした研究で、6月29日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Fanzor is a eukaryotic programmable RNA-guided endonuclease(Fanzor蛋白質は真核生物のプログラム可能なRNAにガイドされるDNA切断酵素)」だ。
Fanzor(Fz)分子は2013年に真核生物のもつTnpBファミリー分子として特定されていたが、研究は進んでいなかった。この研究では、Fz分子の系統樹をデータベースから探索し、649種類の真核生物がコードするFz分子、80種類の特に巨大ウイルスがコードするFz分子を特定して(Fz1、Fz2の二つの流れに分類できる)、これらがおそらくトランスポゾンの機能と結合して広く分布した大きなファミリー分子であることを確認する。
TnpBやCas12は濡木研により詳しく解読されているので、いくつかのFz分子をこれらと比較しながら、これらがRNAにガイドされるDNA切断酵素であることを構造的に確認している。
さらに構造解析に加えて、酵母のFz1蛋白質に焦点を当て、Fz1のゲノム挿入部位から、3‘側に存在するノンコーディングRNAが、切断するDNA側の特異配列を認識するガイド及び、Fz1が認識する部位として働いていることを確認する。
これらの解析を元に、Fz1により人間の細胞のゲノム編集に使えないか、蛋白質の至適化、及びヒト遺伝子に対するガイドの至適化などを重ね、特異的遺伝子にFz1の種類に応じた欠損を発生させられることを示している。
後は、Fz1蛋白質とガイド、TAM、標的DNAの構造解析を詳しく行い、さらには遺伝子の配列やガイドの配列を変化させ、最もコンパクトで効率の高い遺伝子編集可能なFz1を作成している。
以上が結果で、実際には紹介しきらないほどの様々なデータが含まれ、是非使ってみようと思うこと間違いない。特に、特異性が高くオフターゲットの切断が少ない点、さらにはCasと比べて小さな蛋白質で編集が可能なことなどから、新しい遺伝子編集システムとして期待できると思う。
ただ、遺伝子編集利用と言うだけでなく、真核細胞にRNAガイドDNA切断酵素が発見されたことは、我々のゲノム進化を考える上でも重要な貢献だと思う。この分野の発展は止まらない。
1:特異性が高くオフターゲットの切断が少ない.
2:Casと比べて小さな蛋白質で編集が可能.
3:真核細胞にRNAガイドDNA切断酵素が発見された.
Imp:
次々発見されるゲノム編集技術。
細胞コンピューター、妄想で終わりそうにないです。
次回、ジャーナルクラブ、この話題でもよさそうです。