7月19日 Nature にオンライン掲載された論文の中に、3編の先端組織学の論文が掲載されていた。Single cell RNA sequencing はこの10年で生物学や医学を大きく変革したが、組織の美しい形態は犠牲にせざるを得ない。ただ、形態には多くの情報が隠れており、従って single cell のオミックス情報と、形態をできるだけ簡単に組みあわせたいと思うのは当然だ。
この目的で様々な方法が開発されているが、この3編では既に実験のためのコマーシャルサービスが提供されている方法を用いて行われている。この3編及び、統合組織学の最近のトレンドについては、8月にでもジャーナルクラブで紹介することにして、今日はヒト胎盤の螺旋血管リモデリングを追いかけたスタンフォード大学の研究を紹介する。タイトルは「A spatially resolved timeline of the human maternal–fetal interface(ヒトの母体と胎児の接点についての形態学的変化)」だ。
これまで、様々な金属でラベルした複数の抗体を用いて細胞を染色し、その細胞をフローサイトメーターで流しながら、一個一個の細胞をイオンビームで照射して、金属飛行距離を調べるTOF測定を行うことで、それぞれの細胞に存在する分子の数を、飛行距離の異なる金属の数として調べるCyTOFについては何回か紹介してきた。
この研究では同じ方法をフローサイトメーターではなく、組織上でイオンビームを照射してTOFを行う方法を用いて解析することで、組織上での複数の蛋白質の発現マップを形成している。実際には37種類の抗体を用いて、50万個近い細胞を解析している。
この方法に加えて、バーコード化した核酸プローブを用いて、複数のRNAとin situ hybridizationを行い、その組織に残ったプローブの数から、組織上での遺伝子発現を調べるSpatial transcriptomicsも用いている。
これらの方法については、改めてジャーナルクラブで紹介することにして、この統合的組織学の粋を用いてこの研究が解析したのは、母親から胎児の方向へと進入して酸素供給に関わる螺旋動脈の発達と消衰時の、胎児細胞との相互作用だ。
詳細は全て省くが、螺旋動脈は時間とともにリプログラムされるが、この時隣接する細胞と血管内皮の遺伝子発現の統合組織学を行い、最終的に血管リプログラムを誘導するのは螺旋血管と直接接する脱落膜の絨毛外栄養細胞(ETV)で、これが発現する分子の変化により、血管新生が起こり、さらにNK細胞のリクルートを行い、免疫寛容環境を作ることで、母胎から胎児への拒絶反応が抑えられるという結果だ。
機能的実験ではないので、シナリオについては個々の分子を変化させる実験が必要だが、ここまで進んだ統合組織学のおかげで、組織学者もこれまで以上に想像を膨らませることが出来ることを示す、重要な論文だと思う。是非8月、ジャーナルクラブを計画しよう。
絨毛外栄養細胞(ETVが,発現する分子の変化により、血管新生が起こり、さらにNK細胞のリクルートを行い、免疫寛容環境を作ることで、母胎から胎児への拒絶反応が抑えられる.
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生命の神秘の一つ=胎児拒絶反応抑制機構!