プロバイオやプレバイオ、善玉菌や悪玉菌と言った概念は一般に流布しており、コマーシャルにも当たり前の様に登場しているが、世界中で追試が行われ、多くの論文で確認されているプロバイオはそれほど多くはない。その中の最も有名なのは、スウェーデンのBioGaiaにより販売されているロイテリ乳酸菌で、このHPでも何回か論文を紹介した。
今日紹介する同じスウェーデンのヨテボリ大学からの論文は、スウェーデンのプロバイオ研究の強さを覗わせる論文で、有用と思われる細菌を腸内細菌叢から分離し大量培養を可能にするための研究。8月2日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Synergy and oxygen adaptation for development of next-generation probiotics(次世代のプロバイオ開発のための相乗効果と酸素への適応)」だ。
この研究では、Faecalibacterium prausnitzii(FP)に焦点を当てて培養法の開発を行っている。というのも、多くの腸内細菌叢の研究でFPは、短鎖脂肪酸合成能が高い菌として知られ、特に西欧型のライフスタイルで失われてしまうことが知られており、これを補うことはプロバイオ業界にとっては重要なテーマとなっている。ただ、FP商業的に生産するには、二つの大きなハードルが存在する。
一つは元々単独では培養が難しいことで、この問題を克服するために環境から硫黄化合物を除去する能力があるD.pinger(DP)菌を最初から存在させた培養条件でFP培養を試み、DP存在下では1000倍以上増殖が促進すること、さらにブチル酸などの短鎖脂肪酸の合成が、共培養条件だけで維持できることを示している。またこの協調関係が、FPによるブドウ糖の発酵による乳酸合成、その乳酸を利用したDPの酢酸合成、そして今度はその酢酸を利用たFPのブチル酸合成という相互に栄養を提供し合う関係が成立していることを示している。
次の問題は、FPもDPも酸素毒性に感受性が高い嫌気性菌である点だ。ヨーグルトに使われる乳酸菌のような通性嫌気性菌と比べると、圧倒的に酸素を嫌う。そこで、アンチオキシダントとして酸素耐性を与えてくれるシステイン存在下で培養を始め、段階的にシステインを減らし酸素を高める選択過程を行い、最終的に酸素耐性のFPを確立している。
ゲノム配列を調べると、15種類の変異が特定されているが、これらは代謝経路とは全く無関係であり、酸素耐性菌もDPとの共培養でブチル酸を合成できることを確かめている。
この組み合わせをマウスに投与して、比較的短い安全性確認実験を行った後、驚くことにすぐ人間のボランティアを用いた治験を行っている。治験結果だが、安全性は問題ない様だ。ただ、DPは上昇するが、FPはほとんど上昇がない。
以上が結果で、FP+DPプロバイオの健康への影響を云々する段階ではないが、選択過程や、相乗効果の分子基盤がゲノム解析として蓄積されれば、FPのみならず他の菌もプロバイオとして利用する道筋が生まれた気はする。
ただ、次世代のプロバイオをうたう割には、まだまだかなと言う気がするし、Nature掲載というのも少し甘い気がする。
選択過程や、相乗効果の分子基盤がゲノム解析として蓄積されれば、FPのみならず他の菌もプロバイオとして利用する道筋が生まれた気はする。
Imp:
新たな共培養可能菌を発見し、所望の細菌の培養効率を高める。