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9月9日 昆虫食を続けると何が起こる(9月8日号 Science 掲載論文)

2023年9月9日
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アリクイの様に昆虫を主食にする動物だけでなく、昆虫食は蛋白質源としてサルの脳の進化にも関わるという話がある。中でも面白いのは2014年に紹介した、アルコールデハイドロゲナーゼ4が、オランウータンにはなく、ゴリラ以降我々まで存在しているという話だ(https://aasj.jp/news/watch/2661)。すなわち、類人猿が地上に降りる機会が増えると、熟した果物を食べる様になり、同時にその中に混在する昆虫が蛋白源となり、脳の進化にも寄与したという仮説だ。

この真偽はともかく、昆虫食、特に豊富に含まれるキチンを食べ続けるとどうなるのかについて調べた面白い論文がワシントン大学から9月8日号 Science に発表された。タイトルは「A type 2 immune circuit in the stomach controls mammalian adaptation to dietary chitin(胃に存在する2型免疫サーキットがキチン食への適応を調節している)」だ。

実は2014年、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のグループにより、キチン食が自然免疫を刺激して好酸球浸潤を伴う消化管の炎症を起こすことを示した論文が発表されている。当然昆虫食に対するよいイメージはない。

これに対し、詳しく調べればキチン食にも良い効果があるのではと詳しく調べたのがこの研究だ。まず昆虫を主食とする動物が食べるキチン量をマウスに投与すると、2014年の論文で示された様に IL-25、IL-33、そして TSLP の3種類のサイトカインを媒介として、自然免疫に関わる ILC2 細胞が活性化し、この細胞により分泌される IL-5 や IL-13 により好酸球浸潤を伴う炎症が起こる。

ただこれだけでなく、キチン食では胃が膨満し、内容物も2倍以上に増加する。さらに調べると、キチン食はまず胃のタフト細胞を刺激し、ここから分泌される様々な因子が、胃を膨満させ、これにより刺激されたメカノセンサー細胞から IL-25 などの ILC2 刺激因子が分泌され、自然炎症が誘導されることが明らかになった。風が吹くと桶屋が儲かる話ぐらいややこしいが、この過程にリンパ球や、腸内細菌叢は全く関わっていない。

では、キチン食を続ければどうなるのか。驚くことに、胃の上皮が発達し、腸の長さも10%異常上昇する。また、好酸球の浸潤を伴う炎症も続く。しかし、キチン食は胃の膨満を誘導するだけでなく、GLP-1 をはじめとするニューロペプチドの分泌も促す。

うまくいけばメタボが改善されるのではと、高脂肪食を摂取させて調べると、インシュリン感受性は昆虫食で改善する。ただ、脂肪が減って体重が低下するまでには至らない。

これは、キチンが速やかに分解されるためではないかと考え、キチン分解酵素の発現を調べると、胃では分泌腺に発現して、キチン刺激により誘導され、特に酸性条件でキチンを速やかに分解することがわかった。従って、キチン刺激は脂肪代謝まで改善するより前に、分解されていることがわかった。

この結果はまた、哺乳動物も昆虫食に適応するため、胃をプログラムし直して、キチンを摂取したときに、キチン分解酵素を分泌する様になったと考えられる。

以上が結果で、昆虫食への適応としてのキチン分解酵素の誘導システム形成の副作用として、IL-5 分泌を伴う2型アレルギーが誘導されるように見えるが、このグループはこれも、消化管への寄生虫感染に対応するための適応ではないかと考えている様だ。

いずれにせよ、昆虫食(エピカニの殻も同じ)は、普通の食事とは異なることがわかった。炎症が起こっても大丈夫かについては、昆虫食を続けている人たちの疫学調査を待つしかない。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:哺乳動物も昆虫食に適応するため、胃をプログラムし直して、キチンを摂取したときに、キチン分解酵素を分泌する様になったと考えられる。
    2:炎症が起こっても大丈夫かについては、昆虫食を続けている人たちの疫学調査を待つしかない。
    Imp:
    地球沸騰で食料危機も絵空事ではなくなりそうな昨今。
    長期間の昆虫食が、人体に与える影響も考える必要が出てきました。

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