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10月10日 特異性のないワクチンは可能か?(10月4日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2023年10月10日
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特異性のないワクチン、すなわち目的の細菌を抗原として使わないで感染を防ぐことは現実に行われている。コロナ感染の時、免疫トレーニングとして知られるようになったBCG接種によるウイルス感染の抑制はその例だ。しかし、コロナを含むウイルス感染となると、当然抗原を含むワクチンの方が有効で、免疫トレーニングを一般的感染予防として用いることは、効果から考えても現実的ではない。

ところが、抵抗力の落ちた患者さんが病院で多剤耐性菌に感染するような場合は、免疫トレーニングも一つのオプションとして実際に治験が行われている。今日紹介する南カリフォルニア大学からの論文は、黄色ブドウ球菌など医療関連感染に対するワクチンが可能であることを示した研究で、10月4日号の Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「A protein-free vaccine stimulates innate immunity and protects against nosocomial pathogens(蛋白質を含まないワクチンは自然免疫を刺激して病院内感染を防ぐ)」だ。

ワクチンの研究過程で、病原体とは関係ない蛋白質を抗原として加えても感染が防御できた実験結果を検討する中で、蛋白質を含まないワクチンに加えた物質、すなわち水酸化アルミニウム(古くから抗原を沈殿させるのに使われている)、リン脂質、そしてグルカン粒子だけでも免疫トレーニングによる感染防御が可能性はないかと考えた。

そこでこの3種類の物質を単純に混ぜたワクチンを作成しマウスを免疫し、アシネトバクター、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌を感染させると、アシネトバクター感染に対してはほぼ完全な防御、ブドウ球菌や肺炎桿菌については一定の防御効果を認めている。

次に、さらに強い防御可能なワクチンを模索し、グルカン粒子を真菌由来のマンナンに置き換えることで、ブドウ球菌、肺炎桿菌、緑膿菌、さらにはカンジダに対しても用量依存的に予防効果が認められることがわかった。

この効果は獲得免疫系が存在しないRAGノックアウトマウスでも見られることから、自然免疫を介する効果で、さらに投与後すぐに効果が現れることがわかる。

自然免疫に関わるサイトカインのレベルを調べると、IL1β や IL6 のような炎症性サイトカインが低下する一方、炎症を抑える方の IL10 などのサイトカインが上昇することがわかった。そしてこの変化は、ワクチン接種によるクロマチンの変化を基盤として、1月程度持続することを示している。

ヒトについては試験管内でマクロファージを刺激する実験を行って、炎症性サイトカインの分泌が落ちることを示しているが、IL10 の挙動はマウスの結果と完全に一致しないので、試験管内実験では予測できない。需要は高く、また既にBCGの治験も行われている分野なので、治験として進める可能性は十分ある。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:グルカン粒子を真菌由来のマンナンに置き換え、ブドウ球菌、肺炎桿菌、緑膿菌、カンジダに対しても用量依存的に予防効果が認められる。
    2:効果は獲得免疫系が存在しないRAGノックアウトマウスでも見られることから、自然免疫を介する効果で、さらに投与後すぐに効果が現れる。
    Imp:
    非特異的自然免疫の強みを生かすワクチン。

  2. YH より:

    ピシバニールの局注がポリープ様腫瘍に一部有効との報告もあるので免疫反応の連鎖は難しくてもがん免疫に通じる所があるといいなと思います。

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