老化した細胞を積極的に除去することで新陳代謝を促すことで、組織レベル、あるいは個体レベルで若返ることをゼノリシスと呼んでいる。すなわち、老化細胞を分解させるという意味だ。最初、ゼノリシスの可能性は老化した細胞を自殺遺伝子で除去するという方法を用いて示されたが、その後、非特異的キナーゼ阻害剤ダサニティブに抗酸化剤ケルセチンを用いる方法が開発され、これは臨床的治験が進んでいる。他にも、東大医科研の中西さん達はグルタミナーゼ阻害剤でもゼノリシスが促進できるという可能性を示している。
今日紹介する韓国・建国大学と蔚山科学技術院研究所からの論文は、老化に伴うミトコンドリアを標的にした面白いアイデアの研究で、10月11日号の米国化学協会雑誌に掲載された。タイトルは「Supramolecular Senolytics via Intracellular Oligomerization of Peptides in Response to Elevated Reactive Oxygen Species Levels in Aging Cells(老化した細胞の活性酸素によって細胞内でペプチドをオリゴマー化させる超分子的ゼノリシス)」だ。
要するにアイデアが面白い。ミトコンドリアに濃縮されるペプチド (KLAKLAK) を、重合のための活性基Dithiol と老化細胞が高発現するインテグリンに結合する RGDペプチド配列で挟んだペプチド化合物 Mito-K1及びMito−K2 を合成し、これが細胞内に取り込まれ、ミトコンドリアへ移行すると、そこで上昇している活性酸素により重合して、ミトコンドリア膜を損傷し、細胞死を誘導するというアイデアだ。
研究ではこれらの分子が老化細胞に取り込まれると、ミトコンドリア膜上で重合し、ミトコンドリア膜を破壊、細胞死を誘導できることを示している。一方、正常細胞では分解される。実際には、本当に重合しているのか、細胞死の誘導メカニズムは何か、さらには正常細胞への毒性はないのかなど、徹底的に調べている。
その上で、ゼノリシス治療として使えるかについて、眼球内にアドリアマイシンを注入し網膜色素細胞の老化を誘導するモデル系で、Mito-2が老化を防ぎ、さらには視覚機能低下を防げることを示している。また、RNAを誘導する黄斑変性症でも、Mito-K2は老化細胞を除去出来ることを示している。
最後の極めつけは、24ヶ月齢マウス眼球に Mito-K2 を注射し、自然老化で起こる視力低下を抑えられることを示した実験で、この方法が正常細胞への影響なしにゼノリシスを可能にする新たな方法として期待できることを示した。
実際には、質量分析、生理学、細胞生物学、そして single cell RNA sequencing まであらゆる方法を駆使して行われた膨大なデータで、説得力がある。RGD配列で細胞内に取り込ませる方法があらゆる細胞で利用できるかはわからないが、この部分を変化させれば、ゼノリシスの切り札になるかも知れない。
1:24ヶ月齢マウス眼球にMito-K2を注射し、自然老化で起こる視力低下を抑えられることを示した.
2:この方法が正常細胞への影響なしにゼノリシスを可能にする新たな方法として期待できることを示した。
Imp:
人類を悩ます多くの疾患の根底に老化が潜んでいる可能性大。
万病治療薬になるかも?!