昨日サルと人間の脳に関わるゲノムレベルの差が如何に膨大かを示す論文を紹介し、この膨大な差をまとめて我々人間独自の能力の説明するのは、まだまだ研究が必要だと結論した。そして、この差が説明されるようになる前に、まず統合失調症のような多くの多型が集まった病気の発症メカニズムを解く方法論の確立が必要だと書き留めておいた。
これを書いた後最新の論文を眺めていたら、タイムリーに統合失調症のゲノムレベルの多型を細胞機能の差として特定するための方法論確立を目指したミュンヘン大学からの論文に行き当たったので紹介することにした。タイトルは「Massively parallel functional dissection of schizophrenia associated noncoding genetic variants(統合失調症と連関する non-coding 遺伝子変異の徹底的な並列機能分析)」で、10月17日 Cell にオンライン掲載された。
これまでのゲノム研究で統合失調症と連関する遺伝子多型は300近く存在することがわかっているが、その多型から発生する機能の差についてはほとんどわかっていない。勿論、一つの多型に絞れば、マウスや iPS細胞を用いて、その機能を追求することが出来る。この作業を繰り返せば、全ての多型の機能的意味をある程度は理解できる。
ただ、この研究では出来るだけ多くの多型を同時に機能的に調べるために、現在利用できる様々な方法論を選び、それを検証することに重点が置かれている。ただ、先に断っておくが、同時網羅的に調べたとはいえ、統合失調症発症メカニズムが新しく見えてきたわけではない。
さて方法だが、この研究では300近い多型の中から、non-coding 領域の多型を選んで、この多型により発現が変化する遺伝子を特定することに焦点を絞っている。
多型から機能への橋渡しとしてまず行われるのが ATAK-seq を用いたクロマチンの解析と、細胞や組織レベルでの遺伝子発現と相関する多型の絞り込みで、ここまではこれまでの研究と同じになる。
この研究の売りは、こうして絞り込んだ non-coding 多型のエンハンサーとしての活性を、レンチウイルスを用いたレポーター遺伝子の発現を指標として、網羅的に調べているところだ。具体的には、神経幹細胞や iPS細胞に多型領域とレポーター及びタグ付けたバーコードを導入し、細胞が神経に分化したところで、神経刺激有り無しの条件で、レポーター遺伝子の発現量で細胞を分け、タグ付けに使ったバーコードの頻度で、遺伝子発現を高める多型、あるいは抑える多型を特定している。
この方法によって、最終的に194種類の多型に絞り込める。このようなレポーターシステムを導入した iPS細胞は、分化方法を工夫すれば、脳内の各細胞特異的な機能を調べることが出来る。また、刺激により初めて遺伝子発現の差を誘導する多型も特定することが出来る。
こうして、non-coding 領域の多型が調節する標的遺伝子を特定できると、次に iPS細胞を用いた CRISPR を用いてこれらの領域を変異させた iPS細胞を作成し、これを神経へと分化させ、single cell RNA sequencing を用いて、non-coding 領域の変異と標的遺伝子の発現量を調べ、最終的に40種類の、全てのクライテリアを満たした non-coding variant を特定している。
結果はこれまでで、統合失調症と相関する多型の機能を明確にするという意味では重要な方法論的貢献だと思うが、実際にこの実験を進めるのは大変だったと思う。今後は、新しく示された40の多型と、これまで知られている rare variant を会わせた上で、ここの症例を検討することで、発症メカニズムを推察する最も困難な過程が待っている。ただ、新しい生成AI のおかげで、これも意外と早く進むような予感もする。
1:今後は、新しく示された40の多型と、これまで知られているrare variantを合わせ、個々の症例を検討し、発症メカニズムを推察する最も困難な過程が待っている。
2:新しい生成AIのおかげで意外と簡単かもしれない。
Imp:
大変な作業で40の多型をディテクト!