ハンチントン病はハンチンティン遺伝子をコードする遺伝子に存在するCAGの繰り返し配列の数が増加することによる、優性の遺伝病だが、CAGが長ければすぐ発症するというのではなく、神経細胞内でこのリピートの処理が行われる過程に依存していることがわかっている。すなわち、静止期にある神経細胞での転写やDNA損傷の際にCAGリピート部位で発生する slipped CAG と呼ばれるループ構造の不完全な処理により、CAGリピート数がさらに増大し神経細胞死が徐々に起こる、体細胞過程が関わることが知られている。
今日紹介するカナダのトロント子供病院からの論文は、slipped CAG に結合してこの部位を除去する過程を生化学的に解析、slipped CAG に結合する分子の中で、サル以降の進化で生まれた新しいタイプのRPA分子が、旧型のRPAと競合してslipped CAG処理を阻害することで、CAG リピート数が増大する可能性を明らかにした研究で、10月11日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Antagonistic roles of canonical and Alternative-RPA in disease-associated tandem CAG repeat instability(旧型と新型のRPAの競合がCAGリピートの不安定化に関わる)」だ。
旧型の RPA はRPA1、RPA2、RPA3から構成されているが、RPA2 が RPA4 に代わったのが新型の RPA で、全てのタイプはハンチントン病の脳で上昇している。
Slipped CAG を形成させたプラスミドの修復を指標に、それぞれの分子の機能を調べていくと、旧型と新型で slipped DNA に結合する強さ、及び DNA二重鎖をほどく能力で大きく異なっていることを発見する。さらに、DNA 修復に関わる分子との結合様体も変化した結果、修復に必須のヌクレアーゼの機能が新型では阻害されてしまうことも明らかにしている。すなわち、旧型は slipped DNA に結合して一本鎖を除去した後修復する一方、新型では2重鎖がほどけないため slipped CAG がそのまま守られて修復されるため、結果 CAG リピート数が上昇し、さらに長いポリリジンが合成され、細胞死を誘導する可能性が示唆された。
この可能性を、細胞内に様々な量の旧型、新型の RPA を発現させ、旧型はリピート数の増大を抑えるのに、新型は増大を促進することを明らかにしている。
結果は以上で、CAGリピート病は遺伝する病気であっても、体細胞内での過程が発症に大きく関わること、そしてその中核に slipped CAG 処理機構としての RPA が存在していることを明らかにしている。このことは、遺伝病と言ってもハンチントン病をはじめとする CAG リピート病は治療により進行を遅らせる可能性があることを示している。
実際、slipped DNA に結合する分子標的薬や、アデノウイルスを用いた遺伝子治療の開発が現在進行中で、旧型RPA を上昇させ、新型を抑える治療も一つの標的になり得る。
1:CAGリピート病は遺伝する病気であっても、体細胞内での過程が発症に大きく関わる.
2:その中核にslipped CAG処理機構としてのRPAが存在している。
3:遺伝病と言ってもCAGリピート病は治療により進行を遅らせる可能性がある。
Imp:
CAGリピート病、治療介入の可能性あり!