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10月21日:エボラ現状分析(10月16日号The New England Journal of Medicine掲載論文

2014年10月21日
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エボラ出血熱(EVD)の猛威が収まらない。勿論ワクチンや有効薬剤の開発は重要だが、今一番求められているのは疫学的解析に基づく公衆衛生政策だ。今日紹介する論文はWHOのエボラ対策本部からの先週号のThe New England Journal of Medicineに発表された西アフリカEVD感染の現状を分析した研究だ。タイトルは「Ebola Virus Disease in West Africa-The first 9 month of epidemic and forward projections (西アフリカのエボラウィルス病:最初の9ヶ月の感染状況から見た将来展望)」だ。これ以前のEVD流行は2000年から2001年にウガンダで起こっているが、このときは425例の発病でとどまっている。これと比べると、今回の流行はこれまで経験した事のない規模で進んでおり、2013年12月に最初の症例がギニアで報告されてから、この調査を行った9月14日時点までで、4507例が確定、あるいは疑わしいと判定されている。最も関心を集めている死亡率は、確定診断のついた患者についてみると70.8%で、極めて高い。それでも15−44歳までの世代では、66%で、45歳以上だとこの率が80.4%に跳ね上がる。従って、治療に当たっても一般的な状態を保つ事が重要だ。死亡率は性別や地域別でほとんど差がない事から、世界中に広がる可能性は十分ある。とは言え一定のコントロールは出来ているようで、西アフリカ3カ国内の67行政区のうちほとんどの患者は14地区にとどまっており、全く発生のない地区も存在する。さて、ではここまで感染が拡がった原因だが、先ず最初から出血が起こるわけではなく、熱や倦怠感等普通の症状から始まるため、隔離が遅れる事が挙げられる。実際今回も出血が最初に確認されているのは18%に過ぎない。潜伏期は11.5日で21日間はウィルスの排出がある。現在発症から入院までに5日かかっているが、これは医療従事者でも同じで、どうしても発見が遅れる事を意味している。さて今後の見通しだが、現在も感染者は増加し続けており、このままの勢いでは15−30日で患者数は倍加し、11月には全地区で2万人を超えると予想している。この猛威への対応の一つは、緊急に現在開発段階にある薬剤の治験を科学的に進める事だが、日本の報道で見られるように、一部の患者に投与して一喜一憂するのは意味がない。実際ここまで拡がりを見せると、効果が確認されても、薬剤やワクチンが間に合わない事は確かだ。従って、明らかに死亡率を減少させる事がわかっている病院への隔離を進め、全身状態を保つ事が重要だが、現在も圧倒的にベッド数が足りない。勿論、感染経路特定に基づく早い隔離、速やかで安全な埋葬など地域ぐるみで取り組む必要がある。しかし、ベッドだけでなく専門家も不足しており、世界を挙げた取り組みが必要な事を強調している。本当なら、我が国も応分以上の取り組みを進めるべきだろう。ずいぶん昔に誰かが言っていた。”Show the flag”

 

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