現役時代は徹夜することもあったが、覚えている限り次の日はあまり調子よくなかった。ましてや、活動的になって仕事がうまくいった覚えは全くない。ところが今日紹介する米国ノースウェスタン大学からの論文は、働くための徹夜は、ドーパミン神経を活性化する結果、活動性が上昇し、ストレスによるうつ症状も改善する、という意外な研究で、11月2日 Neuron にオンライン掲載された。タイトルは「Dopamine pathways mediating affective state transitions after sleep loss(寝られないとドーパミンを介して感情状態の変化が起こる)」だ。
この研究のポイントの一つは、マウスにあまりストレスを与えることなく睡眠を妨げる方法を開発したことだ。通常眠りを妨げるためには、音や光で睡眠を妨げるか、ケージの床が動かせて眠りを妨げる。後の方法は徹夜で働く状況に近いが、しかし動く床で動きながら飲んだり食べたりするため、環境が悪化し感覚的ストレスになる。この研究では動く床とともに、少し高いところに小さなプラットフォームを作成し、ここからしか飲み食いが出来ないようにすることで、環境を清潔に保ったまま、しかし動き続ける状況を作っている。
これにより睡眠を完全に阻害したあと、すぐに様々な行動テストを行うと、まず活動性が高まり、さらに性的活動性も高まる。また、知らないマウスに対する攻撃性はほぼ2倍に上昇する。これだけでなく、電気刺激を続けて誘導したうつ状態も、一回完全に睡眠を妨げることで大きく改善することがわかった。
これらの行動の背景にはドーパミン神経の活動があることがわかっているので、視床腹部のドーパミン神経を阻害できる遺伝子改変マウスを用いて、睡眠を妨げている間中ドーパミン神経が働かないようにすると、睡眠を阻止することで現れる症状のほとんどが消えることがわかった。ただ、性的活動の上昇は変化がなかった。
ドーパミン神経は様々な領域に投射している。そこで、側座核、内側前頭前皮質、視床下部、そして線条体にそれぞれ投射するドーパミン神経を逆行性アデノウイルスベクターを用いて阻害すると、側座核へのドーパミン神経阻害では他動だけが抑制され、視床下部へのドーパミン神経抑制では性的活動性上昇が抑えられ、ストレスによるうつ症状の改善効果は前頭前皮質へのドーパミン神経により調節されていることがわかった。一方、攻撃性などの社会性については、様々な領域が関与していることもわかった。以上の結果は、ドーパミン神経は投射場所に応じて異なる行動を支配しているが、睡眠が妨げられると、ほぼ全ての経路が活性化していることがわかった。
最後に、このドーパミン刺激が、それぞれの領域でのシナプス形態を変化させる可塑性を誘導していることも、スパインの形状変化に必要なシグナルを抑える方法で確認している。
以上が結果で、そのまま徹夜をうつ病の治療に使うわけにはいかないと思うが、一つの可能性として慎重に人間でも効果を確かめるのは重要だと思う。
ドーパミン神経は投射場所に応じて異なる行動を支配しているが、睡眠が妨げられると、ほぼ全ての経路が活性化していることがわかった。
Imp:
自分の場合には、当てはならないような気がします。
36時間で不眠で活動するなど苦痛でしかありません。
時差を伴う欧米への旅行も苦痛ですね。