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11月11日 抗体産生細胞を抗原CAR-Tで除去する(11月9日号 Cell 掲載論文)

2023年11月11日
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CAR-T による白血病のめざましい治療報告が発表されたとき、CAR-T の力を思い知らせてくれたのは、白血病細胞だけでなく正常のB細胞も身体から消失するという驚きの事実だった。使った抗原は正常B細胞に発現していることから当然なのだが、この事実を見て免疫治療はガン治療の中心になると実感した。

この性質を生かして、B細胞抗原に対する CAR-T を使ってB細胞を除去し、自己抗体を抑えるという自己免疫治療さえ行われるようになってきたが、自己抗体産生細胞を除去したいなら、抗原を細胞外に発現するT細胞キメラ受容体を用いれば、自己抗体を作っているB細胞だけ除去することが出来るのではと着想した研究がマウスモデルで進んでいる。

最初の研究は世界のCAR-Tセンターになったと言っても過言でないペンシルバニア大学からで、2016年デスモグラインに対する自己抗体により皮膚に水疱が出来る天疱瘡モデルマウスをデスモグラインを細胞外に発現するCAR-T細胞で治療可能であることが Science に発表され、さらに今年に入って同じグループによって重症筋無力症のキナーゼ抗原を用いた CAR-T を用いた治療の可能性が Nature Biotechnology に発表された。

今日紹介するドイツベルリンにあるドイツ神経変性疾患センターからの論文は、最も重要な神経伝達分子の一つ NMDA 受容体に対する自己抗体による重篤な脳炎治療のための CAR-T の開発研究で11月9日号の Cell に掲載された。タイトルは「Chimeric autoantibody receptor T cells deplete NMDA receptor-specific B cells(自己抗体に対する受容体を発現する自己T細胞はNMDA特異的B細胞を除去する)」だ。

アイデアについては既にペンシルバニア大学からの論文が2報あるのによく掲載にこぎ着けたなと言うのが正直な感想だが、しかし重篤な脳疾患であることを考えると、実際の患者さんの自己抗体遺伝子を14種類もクローニングし、ほぼ全てに反応する NMDA受容体の構成を決め、最適の NMDAR分子構成を持つキメラ遺伝子を作成し、これをマウスT細胞に導入して、自己抗体を分泌するB細胞を除去できるか確かめており、勿論評価は出来る。

結果は予想通りで、基本的にはどんな自己抗体でも NMDAR に反応すれば必ず in vitro でも in vivo でも除去できることが示されている。また、in vivo の実験ではほとんど副作用を認めることもないし、また標的細胞が少ないためサイトカインストームも起きにくい。

従って、結果の詳細は省くが、一つだけ驚いたのは、自己抗体による免疫病の場合、血中に自己抗体が大量に存在するのに、それに対する抗原をT細胞受容体にしているT細胞が働ける点だ。実際、マウス体内の実験だけでなく、試験管内でも自己抗体存在化に、キラー細胞活性が発揮できている。

これを結果オーライと済ますのは簡単だが、今後人間に応用するためには、是非 CAR-T がどのように自己抗体を産生するT細胞に近づいて除去するのかについて、もう少し詳しく調べて欲しいと思う。

いずれにせよ、抗原をT細胞受容体とキメラにする CAR-T が可能であるという事実は、CAR-T の可能性をさらに一段と広げるように思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    どんな自己抗体でもNMDARに反応すれば必ずin vitroでもin vivoでも除去できることが示されている。また、in vivoの実験ではほとんど副作用を認めることもないし、また標的細胞が少ないためサイトカインストームも起きにくい。
    Imp:
    拡がる細胞療法の可能性!
    新たな薬剤ジャンルに成長してほしいです。

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