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11月13日 小腸上皮でのコレステロール吸収(11月10日 Science 掲載論文)

2023年11月13日
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「食べ物の分解によりできたコレステロールは十二指腸で胆汁の作用でミセル化した後、小腸上皮のコレステロール結合分子NPC1L1 により補足され、その後おそらくエンドゾームを経て小胞体(ER)に移送され、そこで ACAT2分子によりエステル化され、そこで他の死亡とともにカイロミクロン形成がおこり、細胞外へ分泌される」と思っていた。

ところが細胞膜から ER までの輸送経路については全くわかっていなかったようで、今日紹介する UCLA からの論文は、肝臓での膜から ER へのコレステロール輸送に関わる Asterファミリー分子が小腸上皮でも働いていることを示した研究で、11月10日号の Science に掲載された。タイトルは「Aster-dependent nonvesicular transport facilitates dietary cholesterol uptake(Aster分子による小胞体を介さない輸送システムが腸管でのコレステロール吸収を促進する)」だ。

Aster はコレステロール細胞輸送の担い手として肝臓で研究が進んでおり、当然小腸でも働いていて良い。そこで、Aster分子が遺伝的に標識されているマウスを用いて調べると、主に Aster-B と Aster-C が発現しており、両方をノックアウトするとコレステロールの吸収が低下することを発見する。さらにコレステロールの吸収されるプロセスを追跡して、Aster が細胞膜から ER への輸送に関わることを明らかにしている。重要なのは、Aster 阻害だけでは完全に抑えられないので、これまで考えられてきた他の経路も存在するが、Aster 経路が本筋になっている。

コレステロールは合成できるので、Aster B/C をノックアウトしてもマウスは生まれてくるが、ノックアウトマウスでは高コレステロール食でもコレステロールは上昇しない。ただ、当然体内での合成は上昇している。

コレステロール吸収を阻害する薬剤としてNPC1L1に結合するエゼチミブが使われているが、面白いことにエゼチミブは Aster にも結合して、分子を安定化させる。

次に Aster の細胞内での動態を調べ、コレステロールが細胞膜にロードされると細胞膜へと移行し、ここで NPC1L1 からコレステロールを受け取って ER へと移動し、最終的にエステル化のために ACAT2 に受け渡されることを明らかにしている。

さらに、Aster を阻害する AI-3d でこの過程を抑制し、エゼチミブと同じようにコレステロール吸収を抑えることを明らかにしている。

結果は以上で、小腸での吸収経路が明らかになり、標的分子が増えることで、食事からのコレステロール吸収を抑える様々な薬剤の開発が加速すると思う。現在もスタチンと併用してエゼチミブが使われているが、他の可能性が生まれることは製薬会社だけでなく、食品企業にとっても重要だろう。

  1. okazaki yoshihisa より:

    小腸での吸収経路が明らかになり、標的分子が増え、食事からのコレステロール吸収を抑える様々な薬剤の開発が加速する。
    imp.
    まだまだ、薬の種は尽きないようです。

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