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11月19日 前立腺ガンのエピジェネティック異常を標的にする(11月15日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2023年11月19日
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前立腺ガンというと、日本ではほとんどくわしい病理型にこだわらず、遺伝子診断といっても BRACA 程度で対応しているようだが、実際には様々なタイプが存在する。この中には、アンドロゲン受容体の関与がほとんどない去勢抵抗性前立腺ガン(CRPC)、さらに神経内分泌細胞へと形質転換が起こっている小細胞ガン( NEPC )が存在し、例えばこのような悪性型では Rb1 遺伝子が欠損するケースが多いことなど、ゲノム分類も進んでいる。さらに NEPC への形質転換でわかるように、エピジェネティックス異常も以前から指摘され、悪性転換に重要な役割を演じていると考えられている。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、前立腺ガンのエピジェネティックス異常の一端が DNA メチル化酵素の発現上昇に起因し、これを標的にすることで、他のガンの標的分子まで誘導して新しい治療が可能であることを示した面白い研究で、11月15日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Targeting DNA methylation and B7-H3 in RB1-deficient and neuroendocrine prostate cancer( RB-1欠損および神経内分泌型前立腺がんのDNAメチル化と B7-H3 を標的にした治療)」だ。

エピジェネティックス調節機構は複雑だが、この研究では色々考えず、まず DNA メチルに絞って見ている。典型的前立腺がん(PCA)、CRPC、および NEPC で調べると、NEPC が圧倒的に高い。そこで、この高い発現がガンの増殖に寄与しているか調べるため NEPC から DNMT1 や DNMT3A をノックアウトすると、どの処理でも増殖が低下するが、メチル化維持に関わる DNMT1 ノックアウトが最も効果が高い。そこで DNA メチル化全体を阻害するデシタビンにもガン抑制作用があるかを調べ、移植腫瘍の増殖を抑制する効果があることを確認する。

これだけでも、NEPC タイプの治療の幅が広がる結果で重要だが、このグループはメチル化酵素の上昇と Rb-1 欠損の相関に着目し、PCA から Rb-1 をノックアウトする実験で、Rb-1 が欠損すると、メチル化酵素が高まり、エピジェネティックス異常が誘導される結果、悪性化する経路を明らかにする。すなわち、Rb-1 欠損の有無は、前立腺ガン治療に関しても重要な情報になる。

さらに面白いことに、前立腺ガンの DNA メチル化阻害によって、一種のチェックポイント分子 B7-H3 の発現が上昇することを発見する。B7-H3 に関しては我が国の第一三共により開発された、抗 B7-H3 抗体にトポイソメラーゼ阻害剤を結合させた新しい薬剤 DS7000a が存在するので、デシタビンとの併用療法が可能か調べ、デシタビン投与により H7-H3 発現をより高めて、DS7000a の効果をより高められること示している。

結果は以上で、前立腺ガンもゲノム検査をしっかりやって、RB-1 欠損の場合は、遺伝子発現検査を行うことで、デシタビン+DS7000a治療を選択できることを示している。さらに、DNAメチル化酵素が上昇するケースでは、DNA修復に関わる酵素の発現も変化する可能性があり、他の治療法の効果も予測できる可能性がある。このようにゲノム検査から発現検査まで、ガンに即した治療を行うことが重要なのだが、これがいつ我が国でも可能になるかを考えると暗澹たる気持ちになる。

  1. okazaki yoshihisa より:

    前立腺ガンもゲノム検査をして、RB-1 欠損の場合は、遺伝子発現検査を行い、デシタビン+DS7000a治療を選択できることを示している。
    imp
    新たな複合治療の発想もゲノムから!

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