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11月29日 体に良いとされている食物も悪いことがある:2)食物繊維はクローン病に関わる(11月14日 Cell Host & Microbiome オンライン掲載論文)

2023年11月29日
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今日の話題は食物繊維で、論文ウォッチでも取り上げてきたが、ほぼ全て腸内細菌叢を整えて、体に良い働きをするという研究の紹介だったと思う。ところが、食物繊維が、病気、特にクローン病を悪化させることがわかっていたようで、今日紹介するミシガン大学からの論文は、なぜクローン病にとって食物繊維が悪いのかについてのメカニズムを調べた研究で、11月14日 Cell Host and Microbiome にオンライン掲載された。タイトルは「Fiber-deficient diet inhibits colitis through the regulation of the niche and metabolism of a gut pathobiont(食物繊維を含まない食事は腸の病原性細菌のニッチと代謝の調節を介して腸炎を阻害する)」だ。

ここで実験的クローン病マウスについて説明しておく。クローン病は TH1 型免疫反応による腸の強い炎症で、自然免疫に関わる NOD2 とマクロファージの NADオキシダーゼが欠損して自然免疫が弱まったマウスが Taconic.社由来マウスの細菌叢に触れると、細菌叢内の Mucispirillum菌が体内に侵入し、これに対する免疫反応が引き金になり炎症が発生する。この菌が存在しないJakson研究所由来のマウス細菌叢では病気は起こらない。

この実験系で、マウスに食物繊維が全くない食事を与えると炎症が起こらないことが知られていたが、メカニズムについてはわかっていなかった。この研究では、食物繊維を与えないマウスと、与えたマウスを比較する実験から、

  • 食物繊維を与えないと、粘液層が縮小する。
  • その結果、通常粘液層に存在して、クローン病を引き起こす原因になる Mucispirillum(Tacoma社のマウスには含まれ、Jakson社マウスには存在しない)が粘液外に追いやられ、体内への侵入が防がれクローン病が発症しない。
  • 遺伝的に粘液層が形成できないマスでも Mucispirillum 菌が増殖できず、クローン病は起こらない。

を明らかにする。すなわち、食物繊維依存的に形成された粘膜層があると、Mucispirillum がそこで増殖でき、結果体内へ侵入する一方、粘膜がないと上皮近くで増殖できないため、体内への侵入がなくなる。

もともと Mucispirillum は粘膜を分解し利用する能力は持っていないので、粘液層で増殖する理由がない。そこで、おそらく粘液を好む細菌が、通常は粘液内で増殖しない Mucispirillum を助けるのではないかと考え、食物繊維に依存性の高いバクテリアの中から、R. torques を、粘液層合成には関わらないが、粘膜層を分解して発生した代謝物を通して、粘膜内での Mucispirillum 菌の増殖を可能にしている菌であることを明らかにする。

あとは細菌の発現分子の解析および細菌培養実験を行い、R.torques が主に H2 を提供することでMucipirillum 菌の増殖を助けることを明らかにしている。

以上、少しややこしいのでまとめ直すと、食物繊維は粘液層の維持に必須で、この粘液層を好んで増殖する菌が存在する。その中に、R.torque が存在すると、Mucipirillum 菌が増殖することができる。もちろんこの菌が存在し、体内に入っても自然免疫系で対応するのだが、Nod2 など自然免疫系が欠損すると、そのまま Th1 型の炎症へと発展する。しかし、この場合も食物繊維を止めると、粘膜層が低下し、結果 R.torque が消滅し、ここから H2 供給がなくなるため、Mucipirillum 菌が粘液外へ追いやられ、炎症を抑えることができるという話だ。

食物繊維や粘液も時には問題になることがわかるとともに、細菌叢での複雑な相互作用の一端を垣間見ることができた。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:食物繊維は粘液層の維持に必須で、粘液層を好んで増殖する菌が存在する。
    2:その中に、R.torque が存在すると、Mucipirillum 菌が増殖することができる。
    3:Nod2 など自然免疫系が欠損すると、そのまま Th1 型の炎症へと発展する。
    Imp:
    食物繊維も悪玉に変身することもある!
    5W1Hは基本ですね。

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