チェックポイント治療効果を高めるための様々な方法の臨床治験が行われているが、今日紹介するのは既にアトピーの臨床に用いられている IL-4 に対する抗体が非小細胞性肺ガンの免疫治療に利用できることを示したマウントサイナイ医科大学を中心とする多くの機関が参加した研究で、12月6日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「An IL-4 signalling axis in bone marrow drives pro-tumorigenic myelopoiesis(骨髄での IL-4シグナル基軸が腫瘍を促進する顆粒球増殖を誘導する)」だ。
このグループは非小細胞性肺ガン(NSCLC)の腫瘍環境で免疫を抑えている要因を研究する中で、IL-4の役割を突き止め、さらに抗 IL-4抗体で腫瘍の増殖を抑えられることを報告していた。
ただこの時ガンと周囲組織の相互作用の問題として捉えていた IL-4シグナルの発現を詳しく調べると、ほとんどガン組織で発現が見られないことに気づき、この研究が進められたと思う。ガン局所の問題でないため、実にいろいろ実験を重ねる必要があり、論文で示されているが、最終的に到達したのが以下のようなシナリオだ。
まず、NSCLCが肺で増殖すると、ガン自体及びその環境から様々なサイトカインが誘導されるが、そのうちの8種類は好塩基球やマスト細胞に働いて、IL-4を誘導する。すなわち、ガンが発生すると、サイトカインが循環を通して骨髄に入り、これが骨髄で作られる好塩基球に働き、骨髄内での IL-4濃度が高まる。この結果、好中球やマクロファージの前駆細胞の分化が促進し、この細胞がガン局所に移行してガンに対する免疫を抑える環境成立を助けるというシナリオだ。
実験自体は複雑で、必ずしもこのシナリオが全てかどうか納得できない点もあるが、IL-4受容体を骨髄球からノックアウトするとガンの増殖が強く抑えられるという結果は明確で、さらにマウスモデルで PD-1 に対する抗体と、IL-4に対する抗体を同時に投与すると、ガン抑制の相乗効果が見られる結果も信頼できる。
すなわち最終的なメカニズムはともかく、IL-4に対する抗体を PD-1抗体治療に組みあわせる可能性が生まれた。幸い、抗 IL-4抗体は重症アトピーに対する治療として用いられており、いつでも使える状態にある。
この研究でも最後にコントロールを置かないパイロット治験として、PD-1抗体に反応しない患者さん6人に抗 IL-4抗体投与を3クール行い、経過を見ている。するとほぼ全例で、炎症性サイトカインのレベルが高まり、また末梢血のCD8T細胞の数が増える。
さらに3例については組織バイオプシーでCD8T細胞や、B細胞の数が上昇していることが確認できる。そして、1例ではあるが、X線検査でガンがほぼ完全に消失し、寛解誘導できたことが示された。
結果は以上で、何よりも我が国でも認可されている IL-4に対するモノクローナル抗体を肺ガンの免疫治療に利用する理屈と実際の効果が示されたことは大きい。
最後に個人的感想だが、PD-1抗体治療は言わずと知れた本庶先生がノーベル賞を受賞した業績だが、今回組み合わされた IL-4遺伝子クローニングも、1986年本庶研から報告された。この二つが組み合わされると、より強力なガン治療になるとすると因縁めいているが、面白いのは、PD-1も IL-4も本庶先生のライフワーク、クラススイッチ研究の中から生まれた一種の副産物で、これが今や免疫力のシンボルになっているのを見ると、研究の出口など到底計画できるものでないことがよくわかる。出口・出口とお題目を唱える助成当局もその辺をしっかり理解し、科学力をそいでいるのは当局の責任だと認識してほしいものだ。
何よりも我が国でも認可されているIL-4に対するモノクローナルを肺がんの免疫治療に利用する理屈と実際の効果が示されたことは大きい。
Imp:
アトピー治療薬の意外な作用。
ヒト治験での検証が楽しみです。