昨日は腸内の溶菌ファージウイルスが喘息発症に関与している可能性についての研究を紹介したが、今日は腸内の原虫による複雑な自然免疫刺激について調べた、スタンフォード大学からの論文を紹介する。タイトルは「Metabolic diversity in commensal protists regulates intestinal immunity and trans-kingdom competition(常在原虫の代謝多様性が腸内免疫と細菌叢との競合を調節する)」で、12月13日 Cell にオンライン掲載された。
原虫は単細胞動物と理解して貰えばいいが、アメーバ、トリパノゾーマ、そしてこの論文で研究されたトリコモナスなどを指している。元々原虫は原生動物の中の病原性を持つものを指すが、ここでは病原性に関わらず原虫という名称を使う。
この研究ではまず原虫DNAを選択的に増幅するプライマーを用いたPCRを用いて、マウスとヒトで腸内に存在する原虫の種類を特定し、マウスでも人間でも数は多くないが複数の常在原虫の種類が存在すること、また都会化にしたがって種類が減ることをまず明らかにしている。
あとは、マウスに存在するメージャーな2種類、Trichomonas.casperi(Tc)とTrichomonas musculis(Tm)の2種類の原虫を人間の腸内も反映する代表として、腸内免疫および細菌叢への影響を調べている。
原虫の存在しないマウスに、Tm、Tcを移植し、腸内を調べると、どちらも大腸で増殖して、Th1 およびTh17型T細胞を誘導することを明らかにする。この増殖は細菌叢があっても影響されない。ところが小腸を調べると、Tmを移植したとき小腸Th2型T細胞が誘導されるのに対し、Tc移植では逆にTh2細胞の数が減ることを発見する。
なぜこの違いが発生するのか?これについては、小腸のタフト細胞が増加していることに注目し、原虫のコハク酸分泌能の差によるのではないかと仮説を立て(この辺は私の様な素人にはわかりにくい)、仮説通りTmだけがコハク酸を分泌するたことを確認する。すなわちTmはコハク酸によりタフト細胞を刺激し、その結果小腸でのTh2反応が誘導できると結論している。ただ、ゲノムレベルで比べると、コハク酸合成能の違いを明確には特定できていないが、原虫のTh2免疫誘導能を考えるとき、コハク酸合成能力は重要な要因であることがわかる。
次に、食事と原虫の腸内増殖について調べ、Th2免疫誘導能の高いTmの増殖は環境に存在する繊維成分に完全に依存している一方、Tcは全く依存性がないことを明らかにする。この結果、繊維成分の少ない食事を摂ると、Tmは粘液中のグリカンを消費してしまい、その結果細菌叢を大きく歪めてしまうことを発見している。
以上の結果から、同じTrichomonas科に属する原虫でも、栄養要求性、および代謝物分泌に関して大きな違いがあり、この結果腸内免疫環境および腸内細菌叢への影響が全く異なることが示された。この結果は全てマウスでの話だが、今後人間の腸内での影響を考えるとき、それぞれの原虫の代謝システムを理解することが重要であることを示している。
病原原虫はともかく、常在原虫などこれまでほとんど考えられていないと思うが、病原性がなくても一つの原虫でこれだけの効果があるとすると、今後原虫を用いたプロバイオによる免疫調節も、「免疫ケア」乳酸菌よりずっと面白いかもしれない。
同じTrichomonas科に属する原虫でも、栄養要求性、および代謝物分泌に関して大きな違いがあり、この結果腸内免疫環境および腸内細菌叢への影響が全く異なることが示された。
imp.
代謝産物も肝の一つ!