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12月25日 FOXP3機能不全患者さんからわかること(12月20日 Science Translational Medicine オンライン掲載論文)

2023年12月25日
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人間での免疫トレランスが、胸腺での自己反応性リンパ球の除去と、制御T細胞(Treg)による自己免疫抑制により維持されていることは、これらの過程が傷害される2種類の突然変異の存在から明らかになっている。一つは胸腺での自己抗原の提示がうまくいかない(すなわち胸腺動物園が出来ない)AIRE遺伝子の変異で、もう一つは Treg の機能が傷害される FoxP3遺伝子の突然変異だ。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、 FoxP3 の突然変異による immunodysregulation polyendocrinopathy enteropathy X linked syndrome (IPEX) と言う極めて長い名前の病気の患者さんの詳しい解析を通して、ノックアウトマウスの解析からも明らかにならなかった FoxP3 の機能を明らかにした研究で12月20日 Science Translational Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Identification of unstable regulatory and autoreactive effector T cells that are expanded in patients with FOXP3 mutations( FoxP3変異を持つ患者さんで、制御及び自己反応性エフェクターへの分化が不安定な集団が増加している)」だ。

FoxP3 はX染色体上にあり、ほとんどの IPEX患者さんは男性で、早い時期から全身の自己免疫反応が起こる。面白いのは、キャリアーの女性では、X染色体不活化から考えると FoxP3変異T細胞も存在するはずだが、免疫学的異常はほとんど見られない点だ。さらに、これまで Treg を特定するマーカーを使った測定では、Treg の減少が明確でないことも理解しがたい点だった。

この問題に、末梢血の解析だけで迫るのは簡単ではない。この研究では、これまで明らかになっていた患者さんの解析結果から、FoxP3 により Treg の分化が障害されるのではなく、刺激を受けた後の Tregの機能分化が不安定化しているのではと当たりをつけて研究を進めている。

すると、Treg に特徴的な DNA のメチル化が Treg だけでなく、 エフェクターT細胞(Teff)にも見られることを発見する。そして、single cell RNAsequencing を用いて、Treg から抗原刺激により分化した記憶Treg の抑制機能が失われたのが、IPEXで見られる Treg のメチル化パターンを持つ Teff であることを確認する。

繰り返すと、FoxP3機能がないと、Treg が刺激されメモリーへと分化するとき、Treg の機能を発揮するサイトカインを安定的に維持できず、代わりに IL13 や IL17 と言った炎症サイトカインを分泌する Teff に分化してしまうことがわかった。

これ確認するために、IPEX患者さんの Treg とTreg由来と考えられる Teff の抗原受容体を調べると、同じクローンから由来して、自己免疫反応性の抗原受容体の発現が高まっていることが明らかになった。

一方で、FoxP3 が欠損した Treg が存在すると考えられる母親で全く症状が認められないことから、正常の Treg が存在すれば、由来を問わず自己免疫性 Teff を抑えることができることを示している。

以上、FoxP3 が Treg のアイデンティティーを守っている重要な転写因子であることが明らかになり、ますます Treg の重要性が認識される研究だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    FoxP3機能がないと、Tregが刺激されメモリーへと分化するとき、Tregの機能を発揮するサイトカインを安定的に維持できず、代わりにIL13やIL17と言った炎症サイトカインを分泌するTeffに分化してしまうことがわかった。
    imp.
    FoxP3が肝!

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