神経ネットワークの形成は地球上に全く新しい情報を可能にする大きなイベントだった。最近の大規模言語モデルの成功を見ていると、ニューラルネットワークの可能性は全て規模の問題ではないかと思ってしまう。これをそのまま当てはめると、人間とサルの違いは、ニューラルネットの規模の問題と言うことになる。これは一面正しいのだが、規模を大きくするとき電力をいくらでも使える人工知能と違い、使えるエネルギーが限られている我々では、ニューラルネットを大規模にする過程でエネルギー節約のための様々な分子機構を進化させる必要がある。この進化過程を明らかにするため、人間やホモサピエンス特異的な神経活動調節分子の探索が行われており、このHPでも面白い研究は必ず取り上げることにしている。
今日紹介するベルギーのVIB-KULeuven脳研究所からの論文は、人間だけで興奮神経軸索起始部にだけ発現する分子を特定し、これが神経興奮を抑える役割があることを示した面白い論文で、12月21日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「LRRC37B is a human modifier of voltage-gated sodium channels and axon excitability in cortical neurons(LRRC37B分子は電位依存性ナトリウムチャンネルの調節因子で皮質ニューロンの興奮性を抑える)」だ。
この研究では哺乳動物から現れ、サル、人間へと進化する過程で遺伝子重複で新たな遺伝子が発生し、人間と類人猿のみに存在する LRRC37B分子に着目し研究を始めている。そして、人間とチンパンジーの配列の違いにより、人間だけで皮質神経軸索起始部で発現し、神経興奮を抑えることを明らかにしている。
この抑制メカニズムを続いて解析し、2種類の機構で神経のナトリウムチャンネルの機能を抑制することを示している。
- 興奮神経やシャンデリア細胞から分泌されるFGF13Aと結合して、FGF13Aの神経軸索起始部での濃度を高め、FGF13Aが本来持っているNav1.6電位依存性ナトリウムチャンネルを抑える。
- 電位依存性ナトリウムチャンネルを調節するSCN1Bの結合して、おそらく活動を抑制する。
ことを明らかにしてる。
そして最後に生理学的に人間皮質ニューロンの興奮を、LRRC37B陽性、及び陰性神経で比較し、LRRC37Bを発現することで興奮性が低下していることを明らかにしている。
以上が結果で、勝手な想像だが、ひょっとしたらこのような機構により、シナプスの結合性をニューラルネットで変化させると同時に、神経興奮を抑えることで、電気代を節約しているかも知れない。このような研究の先に、おそらく人工知能のエネルギー消費を抑えた新しいニューラルネットが可能になるのだろう。
生理学的に人間皮質ニューロンの興奮を、LRRC37B陽性、及び陰性神経で比較し、LRRC37Bを発現することで興奮性が低下していることを明らかにしている。
imp.
コネクショニズムの勝利です。
人工知能学史における、
記号主義とコネクショニズムの攻防は興味深いです。