ステロイド剤や免疫抑制剤以外に治療法がなかった重症のアトピー性皮膚炎も Th2 型アレルギーに関わるサイトカインシグナルを標的にする JAK1 阻害剤や、IL4 / IL13 抗体が利用できるようになってからは、少なくとも症状レベルでは制御可能な病気になった。
今日紹介するマウントサイナイ医科大学からの論文は、早期からアトピーを発症する遺伝的アトピー患者さんが持つ JAK1 の活性化型変異(JAK-gof)マウスに導入した時、皮膚病変と比べると肺の Th2 型アレルギー喘息が全く起こらないことに気づき、この原因を突き止めた研究で、12月20日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Sensory neurons promote immune homeostasis in the lung(肺では感覚神経が免疫ホメオスターシスを維持している)」だ。
JAK1 分子の634番目のアラニンがアスパラギン酸に変異した患者さんでは、強いアトピー性皮膚炎や喘息、そして Th2vアレルギーに特徴的な好酸球増殖が現れる。この患者さんを詳しく調べると、皮膚症状に比して肺症状は軽いことに気づき、この原因を探るため同じ変異を導入したマウスを作成している。
このマウスで皮膚と肺の組織を調べると、リンパ球の浸潤や組織の炎症性変化が肺ではほとんど見られないことが明らかになる。そこで、血液細胞移植を行いアレルギー反応を誘導すると、正常マウスで誘導する肺のアレルギー反応が、JAK1-gof を持つマウスに正常マウス血液を移植した場合全く起こらないことを発見する。すなわち、JAK1 が活性化されている肺では、免疫反応が抑えられている。
この肺特異的免疫抑制に関わる細胞を探索して、最終的に肺を支配する迷走感覚神経で TRPV1 発現細胞が JAK1 を発現し、免疫抑制に関わることを、神経細胞を除去する実験により発見する。
JAK1 は皮膚を支配する感覚神経にも発現しているが、かゆみの原因になると考えられ、JAK1 阻害は良い効果があると考えられているが、迷走神経で JAK1 を除去するとアレルギー症状が悪化するので、同じ JAK1 を発現する感覚神経でも皮膚と肺では機能が異なることを明らかにする。
最後に、肺の迷走感覚神経で免疫反応が抑えられるメカニズムを探り、CGRPβ などの神経ペプチドを介して Th2 アレルギー反応が抑制されることを明らかにしている。
結果は以上で、この研究は Th2 型アレルギーが皮膚と肺で異なるメカニズムに依っていることの一端を説明する重要な研究だと思う。実際、感覚神経が JAK1 を発現して、皮膚ではかゆみに関わり、肺では免疫を抑えるなど、まさに事実は小説より奇なりと言える。このようなメカニズムを抑えることで、完全な Th2 型アレルギーの治療が可能になるのかも知れない。
1:肺を支配する迷走感覚神経でTRPV1発現細胞がJAK1を発現し、免疫抑制に関わることを、神経細胞を除去する実験により発見する。
2:この研究はTh2型アレルギーが皮膚と肺で異なるメカニズムに依っていることの一端を説明する重要な研究だと思う。
Imp:
Th2型アレルギーが皮膚と肺で異なるメカニズムに依っている可能性を解明
見た目ではなく、`分子の言語`を理解しないといけないようです。