DNAメチレーションが遺伝子発現調節のエピジェネティックファクターとして重要な働きをしていることは誰も疑わない事実だ。ただ、これまでの研究は、例えばビスルファイドシークエンシングと呼ばれる、メチル化されたDNAを化学変換して特定する方法、すなわちメチル化されたシトシンをゲノム上で特定する技術に基づいていた。さらに最近では NOMe-seq のように、クロマチン構造とメチル化DNAの特定を同時に行う方法も開発され、メチル化DNAの機能が明らかになっている。
これに対し今日紹介するリトアニア・ビリニュス大学からの論文は、クロマチンが開いているメチル化されていないシトシンと、脱メチル化過程にある 5hmDNA を同時に特定する方法を開発し、メチル化されていないシトシンから遺伝子発現を見直した研究で、DNAメチレーションも裏から眺める重要性を教えてくれる研究だ。タイトルは「One-pot trimodal mapping of unmethylated, hydroxymethylated, and open chromatin sites unveils distinctive 5hmC roles at dynamic chromatin loci(一つのチューブ内で、クロマチンの開いた場所のメチル化されていない、あるいはハイドロオキシメチル化部位を解析するとダイナミックな染色体上での 5hmC の機能が明らかになる)」だ。
まず方法だが、開いたクロマチンに存在する GC、 CG部位に、それぞれ異なるDNAメチル化酵素を用いて化学修飾を行い、また 5hmC部位にも別の酵素を用いて化学修飾を行う。その後DNAを切断し断片にプライマーを結合させるとともに、修飾した場所に別のプライマーを結合させる。その後、両方のプライマーからDNA増幅を行い、ラベルされたCG、 GC、 5hmCの部位をゲノムの上にマッピングしている。これにより、その時どの領域のクロマチンが開いていたか、そしてそこに存在していたメチル化されていないCを特定できる。また、同じ場所にあってラベル出来なかったCはメチル化されていたと考えられる。
この解析を、ES細胞から神経幹細胞、そして神経細胞への分化過程で行って、転写される遺伝子と照らし合わせて、分化の過程でおこるメチル化、脱メチル化過程を解析している。
これまでメチル化DNAの解析からわかっていたように、分化とともにメチル化部位がダイナミックに変化し、それとともにクロマチンの構造も変化することが、この解析からも確認される。
しかし、メチル化されていない場所を見ることで、全く新しい風景も開けてくる。例えば、プロモーター部位でクロマチンが開いて、メチル化が起こっていなくても、遺伝子発現が起こらないケースが多く認められる。このほとんどは、転写開始点より下流の、遺伝子本体のメチル化が残っているためで、これが脱メチル化過程により 5hmC へと変換されると、転写が始まる。
また、5hmC はイントロンと接するエクソン側に多く存在しており、スプライシングに関わる領域の抑制を完全に取り除いた後、転写にゴーサインが出ていることもわかる。
実際このような遺伝子本体の変化は、分化終了より前から進んでおり、転写が単純にプロモーターとエンハンサーの領域だけで決まるわけでないことがよくわかる。
以上が主な結果で、ゲノムワイドにメチル化部位がわかってきたとき、遺伝子本体のメチル化は何をしているのかなど議論があったが、この論文でよく理解できた。現象は常に表と裏から見ることが重要だ。
関係ない話だがおそらくリトアニアからの論文を紹介するのは初めてだ。今後も応援したい。
このような遺伝子本体の変化は、分化終了より前から進んでおり、転写が単純にプロモーターとエンハンサーの領域だけで決まるわけでないことがよくわかる。
Imp:
メチル化されていないシトシンから遺伝子発現を見直!
『分子の言語』の解読が待たれます。