私たちの身体で働く分子の中には、ウイルスがコードする分子を拝借したケースがあることが知られている。神経細胞でシナプス形成に関わるArc分子はその典型で、Ty3レトロトランスポゾンの Gag蛋白質と相同性があり、実際神経細胞内に存在するRNAを取り込んだウイルス様粒子を形成し、他の細胞へ伝搬させることが知られている。
今日紹介するユタ大学からの論文は、同じTy3由来と考えられる神経細胞分子PNMA が、Arc と同じようにウイルス様粒子を形成して細胞外に分泌され。これが一種の自己抗体を誘発して認知症を誘導するというシナリオを示した、ちょっと恐ろしい研究で1月31日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「PNMA2 forms immunogenic non-enveloped virus-like capsids associated with paraneoplastic neurological syndrome(PNMA2は免疫原性の強い非エンベロップ型ウイルス様粒子を形成し、ガンに随伴する神経症状を誘発する)」だ。
PNMA2 は、Paraneoplastic Ma antigen の略で、文字通りガンに随伴しておこる神経症状の患者さんの抗体が認識する抗原(Ma)のことで、神経細胞で発現しているのはわかっているが、一種の自己抗体を誘発する以外の機能はわかっていない。
この研究では PNMA2 がなぜ Ma抗原に対する抗体を誘導するのか、またそれが神経症状を発生するまでのメカニズムを探っている。
まず、PNMA2 は哺乳動物の進化過程で Gag抗原の一部が DPYSL2遺伝子近くに挿入され、この遺伝子のプロモータを発現に使うようになったこと、その結果海馬で強い発現が見られることを明らかにしている。
次に大腸菌で合成させた PNMA2 を電子顕微鏡で解析、ヒトPNMA2、マウスPNMA2ともにHIVに似たウイルス粒子を形成すること、また皮質神経の培養上清を精製すると、同じような粒子が特定されること、そしてこの粒子はエンベロップでくるまれずに細胞外へ排出されることを確認している。
次に粒子形成が出来ない変異を導入したPNMA2分子を設計し、細胞外への PNMA2分泌には粒子形成が必要であることも明らかにしている。
この粒子5マイクログラムをマウスに注射すると、アジュバントなしに強い抗体産生を誘導し、特に粒子表面でスパイクのように突き出た5‘末端部に対する抗体が誘導される。この強い免疫原性のメカニズムを探ると、PNMA2粒子が樹状細胞に取り込まれると、成熟を誘導し、T細胞刺激に必要な共受容体分子とともに、炎症性サイトカイン分泌を誘導する結果であることを示している。
最後に、PNMA2粒子に対する抗体をマウスに注射すると、認知機能の低下が見られること、しかし神経実質に対する免疫細胞の浸潤は見られないことを示し、例えばシナプス機能を直接阻害するような抗体が誘導される結果であることを示している。
最後の症状につながるメカニズムは明らかになってはいないが、1億年前にウイルス分子を自己として取り込んだ結果の、自己と他かの区別がつかないような免疫病が存在することがわかった。
1.Ty3由来と考えられる神経細胞分子PNMAが、Arcと同じようにウイルス様粒子を形成して細胞外に分泌され。
2.これが一種の自己抗体を誘発して認知症を誘導する.
imp.
P NM Aウイルス由来だったとは!
未だに、他者として認識される!