IL-10 は多くのサイトカインの中で炎症を鎮める役割を持つ重要なサイトカインとして知られている。シグナル経路についてもよく研究されており、最終的に STAT3 のリン酸化による転写調節が主要な経路だ。こう言ってしまうと、理解できた気になるのが不思議だが、実際にはなぜ IL-10 で炎症が治わるのか、説明になっていない。実際 STAT3 は炎症性サイトカイン IL-6 の下流にも存在する。
この問題を問い直したのが、今日紹介するイエール大学 Flavell 研からの論文で、炎症のメディエーターとして重要な脂質に注目して IL-10 の役割を調べた研究で、2月27日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「IL-10 constrains sphingolipid metabolism to limit inflammation(IL-10 はスフィンゴリピッド代謝を制限して炎症を抑制する)」だ。
もともと脂質代謝は複雑でとっつきにくい。しかし、オメガ脂肪酸からプロスタグランジン、ロイコトリエンなど炎症メディエーターは脂質代謝の理解なしに考えられない。そこで、IL-10 により抑制される TLR2 経路を正常マウス及び IL-10 欠損マウス由来マクロファージで刺激し、脂質代謝物の IL-10 欠損による変化を見ると、IL-10 欠損マクロファージで様々なタイプのセラミド、特に長いアシル鎖を持つ VLC セラミドが上昇していることを発見する。セラミドは炎症誘導に関わることが知られており、脂質代謝を介して IL-10 が炎症抑制に働くという仮説と一致している。
そこで、VLC セラミド合成に関わる Cer2 酵素をノックアウトした骨髄由来マクロファージを調べると、TLR2 刺激に対する炎症反応を抑え、IL-10 欠損による炎症を抑えられることを示している。また、IL10 受容体と CerS2 セラミド合成酵素の両方をノックアウトすると IL-10 ノックアウトによる腸の炎症を抑えることが出来る。
後は、さらに詳しく TLR2 シグナルと、IL-10 シグナルのセラミド合成についてアイソトープを用いた代謝実験を行い、
- 炎症では脂質代謝に関わる遺伝子の発現が変化し、スフィンゴリピッド合成と VLC セラミドの蓄積が起こる。
- VLC セラミド合成は炎症に関わる NFkB 経路の REL に依存している。
- IL-10 はセラミド合成過程ではなく、セラミドから mono-unsaturated fatty acid(MUFA) を合成する遺伝子を誘導し、セラミドの蓄積を抑える。
- また、MUFA 自体もまだよくわからないメカニズムで炎症を抑える。
などを明らかにしている。脂質代謝は単純に遺伝子発現ネットワークだけで決まらないので、炎症シグナル、IL-10 シグナルの間の脂質代謝経路についてはわからない点も多い。従って、この研究は IL-10 シグナルを脂質代謝の観点から見直す入り口に立った仕事と言っていいだろう。しかし、MUFA が多いオリーブオイルは炎症を抑制することが知られていることから、面白い分野に発展すると思う。
1:脂肪代謝は単純に遺伝子発現ネットワークだけで決まらないので、炎症シグナル、IL-10シグナルの間の脂肪代謝経路についてはわからない点も多い。2:この研究はIL-10シグナルを脂肪代謝の観点から見直す入り口に立った仕事だ。
Imp:
MUFAを介しサイトカインと脂肪代謝が繋がる。