今日はフランスINSERMを中心に世界規模の研究所を集めて行われた Pre-T cell receptorα 欠損症の調査と研究についての論文を紹介する。タイトルは「The immunopathological landscape of human pre-TCRa deficiency: From rare to common variants(ヒトプレTCRα欠損症の免疫機能:RareバリアントからCommonバリアントへ)」で、3月1日号 Science に掲載された。
専門でない限り、プレTCRα(PTα)について知っている人は少ないのではないだろうか。ひょっとしたら免疫学者の中にも知らない人はいるような気がする。これは、T細胞分化初期、遺伝子再構成が行われているステージに、再構成が成功して発現が始まる TCRβ と会合して細胞増殖を誘導することで、本来 TCRβ と会合する TCRα を発現するための遺伝子再構成のチャンスを増やすという面白い分子だ。機能的抗体遺伝子やT細胞抗原受容体遺伝子の再構成がランダムに起こるためどうしても失敗作がでるので、うまくいくまで細胞に試行を繰り返すチャンスを与えるためのメカニズムだ。B細胞でも同じような機構が存在し、これは λ5、MB1 と呼ばれる分子が担っている。
さて。PTα 遺伝子をマウスでノックアウトすると、未熟時期の増殖が維持できていないので胸腺で作られるT細胞の数は強く抑制される。しかし失敗はあっても TcRα の再構成に成功するT細胞は発生してくるので、少なくとも2ヶ月齢まで免疫異常はでないとされてきた。
ではヒトではどうなのかとフランスを中心に免疫異常の患者さんのゲノムデータベースを探索し、10人の PTα 遺伝子欠損患者さんの特定に成功している。様々な変異により機能欠損が起こるが、両方の染色体で PTα 欠損がホモにならないと症状は出ない。
この変異の頻度は1万分の1以下なので、両方の染色体に揃う確率は極めて低い。ただ、両方が揃うと、胸腺の萎縮によるT細胞の減少、それを補うメモリーT細胞の増加、さらに PTα に依存しない γδT細胞の増加が見られるが、NK細胞やNKT細胞には大きな変化は見られな。もちろん患者さんによっては、感染しやすいなど獲得免疫の異常が見られる。
ただ最も目立つのは自己免疫病の発生で、特に甲状腺や血小板減少などが特に目立つ。しかし、T細胞はなんとか出来るので、うまくいくと高齢になるまで全く症状なしのケースも存在する。異常の症状から、ほとんどの患者さんは common variable immunodeficiency という診断がつけられている。
PTα なしにT細胞が作られるプロセスもマウスで検討されており、この研究では胸腺内でのT細胞算出異常について詳しく解析している。例えば CD4CD8 ダブルネガティブ細胞の頻度上昇がヒトでも認められ、様々な経路を使ってT細胞算出異常を保証しようとしていることがわかるが、結論的にはマウスの結果と同じと言って良い。
最後に、各国のデータベースから PTα 遺伝子の変異をリストし、その中で2種類の機能に関わる点突然変異を特定している。一つの変異は中東に、一つの変異は東アジアで多く、ホモ個体も特定している。ただ、これらは機能異常を伴うものの、完全欠損と比べると機能低下の程度が弱く、強い症状は見当たらないが、自己免疫傾向とともに γδT細胞の上昇が見られる。
以上が結果で、PTα は欠損しても生存可能だが、人間では間違いなく様々な免疫異常を認めるという結論だ。今後特に自己免疫に関わるT細胞の解析が進むことで、免疫系のホメオスターシスの新しい側面が見えてくる気がする。
様々な変異により機能欠損が起こるが、両方の染色体で PTα 欠損がホモにならないと症状は出ない。
imp
こんな分子が存在してたんですね!