先日紹介した40Hzの光と音で海馬に γ波を発生させ、脳の Glymphatic の流れを促進する論文では、血管の拍動とアストロサイト終足部へのカリウムチャンネルの移動が流れを促進していることが示されていた(https://aasj.jp/news/watch/24037)。
この場合、神経活動により様々な作動因子が神経から分泌されることが引き金になるが、今日紹介するワシントン大学からの論文は、神経が協調的に興奮すること自体がイオンの流れを発生させ Glymphatic の流れを駆動することを示した研究で、2月28日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Neuronal dynamics direct cerebrospinal fluid perfusion and brain clearance(神経のダイナミックスが脳脊髄液の灌流を高め老廃物を除去する)」だ。
以前、人間の脳脊髄液(CSF)の流れを追跡したボストン大学の論文を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/11657)、脳波の活動と CSF が連動していることが示されていた。この研究にヒントを得て、脳の活動自体が CSF 駆動力になっているのではと考え、脳波をとりながら CSF の流れをイオン流として検出する方法を組みあわせて調べると、神経の協調的興奮を示す大きな振幅の興奮の波に一致して CSF の流れのパルスが生じることを発見する。全体がランダムに興奮している覚醒時にはこのようなイオンのパルスは生じない。
これがイオンパルスだけでなく、脳からの分子の除去に関わることを示すため、デキストランを注射して追跡すると、神経興奮を抑えた側で除去効率が低下する。
以上のことから、神経が興奮後エネルギー依存的にナトリウム・カリウムポンプを働かせることがイオン流を形成し、これが CSF の流れを駆動していると結論している。
次に、睡眠による CSF 流上昇が同じメカニズムか調べるため、睡眠中の脳波とイオン流、そして注入したデキストランの動きを調べ、ケタミンほど大きな協調興奮ではないが同じメカニズムでイオン流と CSF の流れが生じていることを明らかにしている。さらに脳の興奮を抑えると CSF の流れが低下することを、ガドリニウムを用いた MRI による CSF 追跡実験でも確認している。
最後に、光遺伝学的に 1Hz の協調的神経興奮を誘導する実験を行い、神経興奮を誘導した側でデキストランの移動が上昇することを明らかにしている。
以上が結果で、最後の光遺伝学的興奮誘導は決め手になる実験といえ、少なくとも大きな波の神経興奮が CSF の流れを駆動することが示されたと言える。
γ波を用いた実験も正しいとすると、様々なタイプの神経興奮が、異なるメカニズムで CSF の流れを生んでいることになるが、さらに研究が必要だろう。
神経が協調的に興奮すること自体がイオンの流れを発生させGlymphaticの流れを駆動することを示した研究.
Imp:
Glymphatic.
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