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11月12日:信者に高い道徳を要求する宗教の維持に必要な条件(アメリカアカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2014年11月12日
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人間と神の関係が完全に非対称な一神教の誕生は、人類学の重要な課題だ。この基準を満たす一神教のうち信者が多い宗教は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教になるが、ともにユダヤ教がルーツだ。では人間と神の位置が対称的な多神教から、完全に神が優位の非対称な関係を認めるユダヤ教が生まれるきっかけは一体何だったのだろうか。通説では、中東の砂漠地帯という厳しい自然の下で民族の団結を保つために、人間と完全非対称の関係に基づいて信者に道徳性を求める一神教が生まれてきたのではとされている。この通説の真偽を確かめることは難しそうだが、現在一神教を信じている社会がその信仰を維持し続けている共通性が明らかにできると、この通説を検証するための手がかりになる。今日紹介するワシントン大学からの論文を読んで、まさにこのような問題に科学的に取り組もうとしている研究者がいることを知って驚いた。論文は、信者に道徳性を要求する一神教を信じている集団とそれ以外の集団を比べ、共通の特徴がないかどうかを探った研究で、アメリカアカデミー紀要のオンライン版に掲載された。タイトルは「The ecology of religious beliefs.(宗教的信仰の生態学)」だ。研究では世界各地に散らばる583集団について、宗教、地理的環境、言語、生活様態などを詳しく調べ、道徳性を要求する一神教を信じている社会と相関する条件を統計学的に調べている。方法としては、極めてオーソドックスな文化人類学と言える。すでに一神教を信じる社会の条件として証明されている、農耕、共通の言語などに加えて、今回の解析から、1)家畜の利用、2)集団内の複雑な政治システム、3)食物や水を手にいれることの難しさなどが、一神教を信じる集団の条件として明らかになった。通説との関係でいうと、高い道徳を要求する一神教を信じる集団の多くは、気候変動など環境の変化が激しい場所に住んでいることがわかり、通説も一理あったと納得する。結局極めて常識的な結論が示されると、本当に500程度の集団の比較で結論していいかどうか、統計学的に問題ないことが強調されていても、正直なところ少し疑問を感じる。ただ。このような人間集団の精神的、社会的特徴を科学的に明らかにするという方向性は高く評価する。是非この論文一枚で調査を終えるのではなく、コホート研究として長期にこれらの集団を記録し、得られるビッグデータに基づいた研究へと発展することを願っている。もし通説のように「困った時の神頼みには、頼む側の道徳性を高める必要がある」なら、困難が社会経済的に克服された後は、「衣食たって礼節を知る」ための新しい道徳観が必要になる。

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