近代医学が始まって以来、細菌が発ガンを促すという考えは根強く存在していたが、研究が進むにつれ細菌説は消えていく。ところが、オーストラリアのマーシャルとウォレンによりピロリ菌が胃潰瘍や胃炎だけでなく、胃ガン発症リスクを大きく高めることが示され、ノーベル賞に輝いて以来、細菌とガンの相関研究は重要な分野になり、例えばフゾバクテリウムと直腸ガン、そしてこのブログでも紹介した口内連鎖球菌と胃ガン(https://aasj.jp/news/watch/24006)など、発ガンを促進する細菌が明らかにされてきた。
今日紹介するオランダ癌研究所からの論文は、4000を超す転移ガン組織の細菌叢を調べることで、包括的に細菌とガンの関係を探った研究で、4月25日号 Cell に掲載された。タイトルは「A pan-cancer analysis of the microbiome in metastatic cancer(転移ガンの細菌叢のガン横断的研究)」だ。
1700人の転移ガンの患者さんから、4000を超す転移組織バイオプシーに潜む細菌 DNA 配列を解読し、細菌叢とガンや転移組織特異的相関が見られるか調べている。当然バイオプシーの過程や、転移した側の組織の細菌叢などからの細菌の紛れ込みなどを考慮する必要があるが、これらの要因を除いても、転移組織やガンのタイプに特徴的な細菌叢が存在することを明らかにしている。
転移先の組織で見ると、酸素濃度の影響が大きい。すなわち、嫌気性菌の割合で組織が低酸素状態かどうかがわかる。理由はわからないが面白いのは、ガンのゲノム不安定性と細菌叢のタイプがはっきり分かれる点で、再現できる結果なら調べる価値はある。
この研究の目的は細菌叢によってガンの進展が影響されていないかを決めることだ。ただ、ピロリ菌やフゾバクテリウムのように、ガンの増殖を促進するかどうかについては検討されておらず、もっぱら細菌叢により影響される自然免疫が、ガンの増殖進展に追う影響するかが検討されている。
まず、細菌叢は様々な分子を介して、ガン組織の遺伝子発現を変化させる。例えば、コラーゲンの発現は大きく高まる。また、自然免疫を刺激して好中球や単球の主要組織への移動を促す。これらの結果、ガン組織への免疫細胞の遊走が阻害され、ガンの増大や転移が促進される可能性がある。
一方で、細菌叢はホスト免疫系の影響を強く受ける。例えばチェックポイント治療を受けている患者さんは、一般的免疫が増強される結果、細菌叢の多様性や量が低下する。
残念ながら、この研究はガン免疫に影響を及ぼす特定の細菌を特定するには至っていないが、直腸ガンの増殖を促進することが知られている Fusobacterium とチェックポイント治療について調べ、このバクテリアがガン組織での免疫を抑制して、チェックポイント治療の効果を抑えていることも示している。
以上、「とりあえず調べた」といった感じの論文だが、ガン組織で細菌叢と自然免疫に焦点を当てた点は面白いと思う。このように、細菌叢が自然免疫を誘導し、白血球の浸潤を増やすなら、チェックポイント治療も、まず一般抗生剤でガン組織の細菌を減らしてから行うことも考えられる。
1:細菌叢は様々な分子を介して、ガン組織の遺伝子発現を変化させる。
2:コラーゲンの発現は大きく高まる。
3:自然免疫を刺激して好中球や単球の主要組織への移動を促す。
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