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5月11日 AI と人海戦術を駆使した電子顕微鏡画像の再構成による大脳皮質神経結合マップ(5月10日 Science 掲載論文)

2024年5月11日
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「はじめに線虫ありき」は、分子生物学の祖の一人と言ってもいい故Brennerが、MRCに多細胞動物の発生や生理を研究するための線虫のモデル実験系を確立していく過程を克明にレポートした、大変面白い本だ。詳細はほとんど忘れているが、私の印象に強く残った内容の一つは、モデルが世界的に使われるようになり、このプロジェクトからノーベル賞受賞者が出たのにもかかわらず、Brennerはプロジェクトは不成功に終わったと総括したことだ。彼ならではの皮肉と考えてもいいのだが、自分で見たかったものが見えずに終わったことを率直に述べたのだと思う。

そしてもう一つ印象に残ったのが、プロジェクトの最も重要な目的として線虫内の細胞間の関係を解剖学的に知るという目的で、線虫のスライスを電子顕微鏡で解析し、細胞関係図として再構築しようとしたことだ。ただ、細胞数が1000個程度と言っても、2次元画像を立体的に再構築するのは、コンピュータにパンチカードでインプットしている時代には全く不可能だった。この結果、彼はプロジェクトは失敗したと総括したのだが、彼の夢はコンピュータや AI の発達のおかげで実現している。例えば線虫では、電顕画像をもとに神経発生を再構築した研究がある。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、人間の大脳皮質6層をカバーしている数ミリ単位のブロック(49080個の神経細胞とグリア細胞、8100個の血管細胞が存在し、1億5千万個のシナプスを要する)から、5019セクションを作成し、すべての画像が集められたデータベースを開発した研究で、5月10日号の Science に掲載された。タイトルは「A petavoxel fragment of human cerebral cortex reconstructed at nanoscale resolution(ペタボクセルデータを要するヒト大脳皮質フラグメントをナノスケールレベルで再構築する)」だ。

タイトルにあるようにこのデータベースには2の50乗のボクセルが集められており、これを立体画像にしたり、数値分析するためには様々なアプリケーションの開発が必要で、このグループも3種類のアプリを提供し、データとともに誰もがアクセスし利用できるようにしている。

最終的にどんな画像が得られるのかについては、アクセス可能な論文のアブストラクトに添えられた写真を見てほしい(https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk4858)。神経同士の関係や、一つの軸索に、一つの樹状突起が複数のシナプスを形成している像を見ると、ここまでできるのかと必ず驚くこと間違い無い。

ただ、これが完成するまでは、神経分岐や結合の再構成時の間違いを正す様々な仕掛けが必要になる。通常は全てコンピュータでエラーも検出できるようにするのだが、この研究ではデータを公開し、人間によって画像を追いかける方法も使えるようにしている。要するに、これからこのデータベースを見たいと思う人も含めて、人海戦術でプルーフリーディングを行なっている。

ではこのデータベースから何が新しくわかったのか。形態だけなので新しい発見は難しいかと思いきや、先に示した写真のように、皮質第6層の Triangular neuron が近接している細胞同士で密接な結合を形成していること、また第3層の錐体細胞アクソンにシナプス接合するデンドライトが、ほとんどは一カ所のシナプスで結合するのに対し、写真にあるように何カ所も極めて強固な結合を示す場合があり、分布は確率論的ではなく間違いなく神経活動依存的であることを示している。スパインの形態が変化するのは知っていたが、ここまで複雑な構造が形成されているのを見ると、形態学の重要性がわかる。

  1. okazaki yoshihisa より:

    人間の大脳皮質6層をカバーしている数ミリ単位のブロック(49080個の神経細胞とグリア細胞、8100個の血管細胞が存在し、1億5千万個のシナプスを要する)から、5019セクションを作成し、すべての画像が集められたデータベースを開発した研究
    Imp:
    Brennerの夢はコンピュータや AI の発達のおかげで実現している。
    地球炭素型生命体探索には、
    ヒト自身とシリコン半導体チップ型、2種類のバイオコンピューターの共同作業が必要!
    そう痛感する今日この頃です。

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