何度も紹介しているが、我々の体の細胞は地球の時点に適合して概日リズムを示す。これには Bmal1 をはじめとする転写因子が関わっており、これが欠損すると細胞レベルでこのリズムが狂う。この結果様々な遺伝子の発現も概日リズムに従うことになるため、例えば薬剤を投与するタイミングが異なれば、それに反応する分子の発現量が異なっており、効果も変わることが知られている。
ここまでは十分納得するが、今日紹介するジュネーブ大学からの論文は、遺伝子発現の概日リズムの結果、ガン組織の細胞数まで概日リズムを刻む、すなわち一日の間に数が増えたり減ったりすることを示した研究で、5月8日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Circadian tumor infiltration and function of CD8+ T cells dictate immunotherapy efficacy(腫瘍浸潤とCD8T細胞の機能の概日リズムが免疫治療の効果に現れる)」だ。
最初のデータがまず衝撃的だ。ガンを皮下に注射して12日経ってから、異なる時間にガン組織を取り出し、浸潤細胞の数を測ると、T細胞だけでなく、マクロファージや NK細胞、そしてCD45陽性血液細胞全体が夜の活動期の前をピークとする概日リズムを示す。そして、昼夜をずらせてリズムを狂わせると、浸潤細胞数の数も変化しなくなる。また、Bmal1 をノックアウトすると、同じようにリズムが消失する。
遺伝子発現のリズムならわかるが、簡単に出たり入ったりできない血液細胞数のリズムがどうして可能かについては、腫瘍血管内皮の ICAM やセレクチンが概日リズムを示して、出入りを決めていると結論している。しかし、いったん浸潤した T細胞はそんな短い間に消えていくのか?誰でも、かなり怪しいと思う。実際、normalized 細胞数の計算の仕方は方法を 読んでもよくわからない。
このように誰もが抱く疑問を当然感じて、今度は時間を変えて CAR-T を移植する実験を行い、リズムのピーク時に CAR-T を注射すると、細胞の浸潤が高まり、実際にガンの増殖が抑えられることまで示している。だとすると、CAR-T 治療は注射した時に腫瘍浸潤した細胞だけで決まるのか?これが本当なら、CAR-T 治療を考え直す必要がある。
浸潤した細胞も当然独自に概日リズムを刻む。そして、PD-1 発現を調べると、これも夜の活動期が始まる前にピークが来る。これ自体は全く不思議はないが、PD-1 に対する抗体注射を、ピークのタイミングで行うのと、最も低いタイミングで行う場合を比べると、驚くなかれ抗体の効果が異なり、ピークに注射した方が高い効果を示す。一見なるほどと思ってしまうかもしれないが、抗体の半減期は長い。もし飽和濃度の抗体を注射しておれば、注射後常に抑制が十分効いているはずで、こんな違いが出るのは解せない。もしこれが正しいとすると、最初の抗体注射の状況が記憶されていることになる。
最後に、人間でも同じことがいえることを、手術時間などが正確に知られているサンプルをデータベースで調べ、活動期をピークとする免疫細胞数のリズムがあることや、抗原刺激が続いてフィードバックがかかった CD8 の数が昼に上昇することなどを示している。
結果は以上で、最後まで信じがたい結果だと思う。特にチェックポイント治療結果については、かなりメカニズムを示すことを要求した方がよかった気がする。また、もう少しわかりやすい指標を示してほしかったと思う。ただ、本当なら免疫細胞動態を考え直す必要がある。
時間を変えて CAR-T を移植する実験を行い、リズムのピーク時に CAR-T を注射すると、細胞の浸潤が高まり、実際にガンの増殖が抑えられることまで示している。
Imp:
ありそうな現象ですが、にわかには信じがたいです