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5月22日 遺伝子改変ブタ心臓移植成功に向けた驚くべき研究が行われていた(5月17日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2024年5月22日
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2022年1月に行われた10種類の遺伝子を操作したブタから摘出された心臓を人間に移植する臨床研究は、日本のメディアでも大きく取り上げられた。残念ながら移植後60日で患者さんはなくなったが、原因が特定できない心臓の毛細血管網の破壊が拒絶の原因になったことがわかり、この論文については HP でも紹介した(https://aasj.jp/news/watch/22458)。

この論文を読むまで全く気づかなかったが、実際の臨床試験と並行して、なんと心疾患で脳死と判定された患者さんにブタの腎臓を移植して、移植に対する急性反応を調べる人体実験というのか死体実験というのか、我が国ではまず考えられない研究が、2022年の夏に2例行われ、まずその経過について2023年7月 Nature Medicine に報告されていた。結論的には、移植する心臓の大きさを正確に選ぶことが極めて重要で、小さい場合急速に機能低下を来す可能性が示された。

今日紹介するニューヨーク大学からの論文はその続報で、この60時間の間に、血液や移植心臓の徹底的なオミックス解析を行い、その解析結果の報告で、5月17日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Integrative multi-omics profiling in human decedents receiving pig heart xenografts(ブタ心臓移植を受けた患者さんの統合的オミックスプロファイル)」だ。

繰り返すが、このような臨床実験が構想され、行われたことが驚きだ。移植を受けた患者さんはともに心臓病の患者さんで、基本的には移植の術式を確実にするための研究にもなっている。もちろん長期間の経過は見ることができず、66時間で心臓を取り出している。すなわち、急性の効果を調べる実験になっている。

最初の論文で、患者1、患者2で大きな違いが見られており、これが移植心臓の大きさのミスマッチであることが示されていた。この論文では、60時間採血とバイオプシーにより、移植臓器に対する反応を single cell RNA sequeicing やオミックスを用いて調べているのがポイントになる。

膨大なデータなので詳細は省くが、2人の患者さんで反応が大きく違っていることに驚く。すなわち患者1では、60時間という急性期間にT細胞の増加が見られている。おそらく急性の抗体が媒介する反応と考えられるが、T細胞も細胞障害反応に関わる可能性が示された。実際これに呼応して、患者1では、炎症性サイトカインも上昇している。

この差の一つとして、T細胞の反応が抑えられた患者さんでは移植前に通常の免疫抑制に加えてT細胞を抑制する thymoglobulin 投与が行われており、この有効性が示されている。

移植した心臓側で見ると、サイズミスマッチがあると心臓が虚血になって様々な変化が起こっていることがわかる。従って、移植する時のドナー選びの重要性がわかる。

最後に、移植心臓でサイズミスマッチの変化を除くと、両方の患者さんで血管内皮と線維芽細胞に遺伝子発現の変化が強く見られ、短い間にリモデリングをうながすシグナルが発生していることがわかる。実際の移植例でも、内皮の変化が最終的な拒絶の問題になっていたことを考えると、異種移植の今後の焦点は血管内皮の変化を起こさない方法の開発になる。

いずれにせよ、患者さんが脳死になってからの移植実験にともかく驚いた。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:サイズミスマッチがあると心臓が虚血になって様々な変化が起こっていることがわかる。従って、移植する時のドナー選びの重要性がわかる。
    2:異種移植の今後の焦点は血管内皮の変化を起こさない方法の開発になる。
    Imp:
    日本では考えられない臨床研究ですが、こうした英雄的行いで人類は進歩しているのも事実。
    異種移植研究もこれからのようです。

  2. YH より:

    この論文の是非は別として、日本ではこのような研究計画を作成出来たとしてもまず倫理審査を通過できない。仮に審査を通過して研究出来たとしても新聞のトップ記事で叩かれるような気がします。
    免疫制御の手段として抗炎症治療の王道はステロイドですが、その他の種々の免疫抑制剤の使用に関して何かを指標にして使い分けできるようになると臨床医としては嬉しい。現時点では免疫チェックポイント阻害剤の有害事象対策でステロイド以外の薬剤は経験的使用のため本当に正しい使用かどうか不安がつきまとう。間質性肺炎では抗炎症薬や抗線維化薬を単独あるいは併用で使用するがこれも判断が難しい。免疫と炎症の領域も多くの研究者が取り組むべき課題であるのは事実で1例1例の症例を大切にしながら大きな視点での研究成果が望まれる。

    1. nishikawa より:

      全く同感です。

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