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6月1日 FOPの異所性骨化を阻止する内服薬の開発(5月29日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2024年6月1日
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ALK2分子の変異により筋肉が骨に変化する病気 FOP のメカニズムが明らかになったの今から10年近く前の2015年で、ALK2 に結合して BMP による刺激を抑える働きを持っていたアクチビンが、突然変異により抑制ではなく、刺激因子に変わってしまい、BMP が存在しないときでも筋肉の修復過程で誘導されるアクチビンが、ALK2 を刺激して骨に変えてしまうことがわかった(https://aasj.jp/news/watch/4043)。従って、ALK2 特異的阻害か、アクチビンの阻害により骨化を抑えることができると予想され、昨年リジェネロン社によりアクチビンに対する抗体が実際の患者さんで骨化を抑えることが示された(https://aasj.jp/news/watch/4043)。

この抗体薬はこれまで治験が行われた薬剤と比べ、特異性が高く、副作用が少ないと報告され、FOP 患者さんにとっては画期的研究結果として現在治験が続いている。ただ、抗体薬にはいくつか問題がある。一つは、最も重要な小児期から抗体薬を一生涯打ち続けることが可能かということと、アクチビン自体はそれ自身で ALK2 シグナル抑制以外の機能を持つこと、また FOP 変異型 ALK2 はアクチビン以外に BMP でも刺激を受けるため骨化を完全に押さえられる保証はないこと、などが問題になる。

このため、ALK2 機能を特異的に抑制する方法の開発も望まれている。今日紹介する創薬ベンチャーBlueprint Medicine Corporation からの論文は、ヒト ALK2 特異的小分子化合物を探索し、それがマウスモデルのFOPで筋肉損傷後の炎症から骨化までを抑えることを示した研究で、5月29日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「An ALK2 inhibitor, BLU-782, prevenerotopic ossification in a mouse model of fibrodysplasia ossificans progressiva(ALK2 阻害剤 Blu-782 はマウスモデルの FOP での異所性骨化を防止する)」だ。

この研究では ALK2 を含むキナーゼタンパク質と結合する小分子化合物の中から ALK2 に特異性の高い分子で、副作用の大きな原因になる ALK1 との結合が見られないリード化合物を特定し、このリード化合物と ALK2 との結合状態を構造解析し、これを元に至適な化合物への改良を加え、最終的に Blu-782 に到達している。同じことは、以前理研の後藤創薬チームでも試みたことがあったが、リードの選び方か、至適化に至るシステミックはアッセイ系が完全でなかったのか、残念ながら開発を断念している。その意味では、ALK1 をはじめとするキナーゼに反応せず、最終的に脳内への移行が抑制された Bu-782 に到達しているこの研究は、まさにプロの研究といえるだろう。

後はマウスモデルで、この薬剤の効果を調べている。実験では、筋肉を傷つけ、その修復過程で異所性の骨化が20日目ぐらいに観察されるモデルと用いて効果を調べている。驚くのは、傷つけた後に発生する浮腫及びその後の異所性骨化が Blu-782 で全て押さえられることで、この一連の過程全体に FOP 変異を持つALK2 が関わっていることがわかる。

最初は傷をつける前に腹腔投与を行って効果を確かめているが、その後傷をつけるより前から経口投与を続けていると、同じように浮腫と異所性骨化が押さえられることを示している。

実際の患者さんの状況を考えると、いつ筋肉に障害が起こるかわからない。従って、実験のように最初から予防的に投薬が必要になる。そのためには飲み薬が最も適している。ただ、もし筋肉損傷が起こったことが検出できるなら、検出後に服用して余計な副作用を防ぐ可能性もある。そこで、筋肉損傷後2日目、4日目から投薬を開始する実験を行っている。

結果は筋肉損傷後2日目だとほぼ完全に抑えることができるが、4日目では抑制できない。すなわち、浮腫が起こる段階ですでに骨化へのプロセスが走っていることがわかる。また、投薬を途中でやめる実験を行うと、12日目まで投与を続けると効果は見られるが、1週間で服用をやめたのでは完全に効果が失われる。以上のことから、FOP 型変異を持つ ALK2 が働く時期が、2日目から12日目までの、まだ骨化が起こっていない段階であることがわかる。

ワクチン接種のように、筋肉障害を誘導した時期が明確な場合はともかく、通常いつ筋肉障害が起こったのか明確でない FOP 患者さんの場合、当面この薬剤をほぼ一生涯飲み続けることになるが、今後自覚以前の筋肉障害の早期検出法が開発されれば服薬回数を減らすことは可能になるかもしれない。いずれにせよ、希少疾患の代表といえる FOP でも、創薬ターゲットが明らかになることで、抗体薬から ALK2 特異的な内服薬まで、治療法開発が加速するのを見ると、本当に心強い。

  1. okazaki yoshihisa より:

    ヒト ALK2 特異的小分子化合物を探索し、それがマウスモデルのFOPで筋肉損傷後の炎症から骨化までを抑えることを示した研究
    Imp:
    ついに、FOPにも経口低分子薬が登場
    最近の創薬分野を覗くと、不可能はない!と思えてきます。

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