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6月3日 SGLT2阻害剤はSenolysisを促進して老化を止められるのか?(5月30日Nature Ageingオンライン掲載論文)

2024年6月3日
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私は今日76歳を迎えた。友人の訃報や、病に倒れたという知らせを聞く機会がどんどん増えてきて、その先に確実に自分の番が待っていること毎日感じている。一方で、身体や頭の回りは間違いなく遅くなっているが、それでも毎日論文を読み紹介することで、科学の進歩に興奮し、新しい知識が目の前で広がっていくのを見て、本当に今日まで生きてきてよかったと感謝している。そして、身体の動くうちは、仕事であれ、遊びであれ、どこにでも出かけて日常とは違う時間を過ごすよう心がけており、今回の誕生日も外国で過ごしている。こんな気持ちをAASJのシンボル・フンボルトペンギンに置き換えてGPT-4にインプットすると、ちょっと若すぎるペンギンに描かれているとは思うが、なかなかいいイラストができたのでまず紹介する。

論文紹介もできるだけ自分と関わる論文と探した結果、メディアでも紹介されている順天堂大学南野さんの論文を紹介することにした。タイトルは「SGLT2 inhibition eliminates senescent cells and alleviates pathological aging( SGLT2 阻害は老化細胞を除いて病理的老化を軽減する)」だ。

これまで何回か紹介してきたが、死にかけの細胞を積極的に細胞死に導く Senolysis は、細胞の新陳代謝を促し身体の老化を抑えるとともに、老化がリスクになる肺線維症や腎硬化症などの治療の切り札として研究が進められている。76歳を迎えた私も自分事としてこの分野の研究に注目しているが、これまで Senolysis を誘導するとされた方法は、やってみる気には全くならなかった。ところが、南野さんたちが Senolysis を誘導すると発表した SGLT2 阻害剤は、循環器から腎臓まで、よくわからないが素晴らしい効果があることを知って、昨年から主治医にお願いして糖尿病治療薬として処方してもらっている。すなわち、今回南野さんたちが、基本的には様々な病的な状態で蓄積する老化細胞とはいえ、それを SGLIT2 が抑えることを示したことで、私も Senolysis 実験の当事者になったことになる。そんなわけで、誕生日この論文を取り上げた。

この論文以前にも、腎臓の尿細管では SGLT2 阻害によって、Senolysis が起こることが知られていたようだ。南野さんたちは、この効果が他の細胞でも見られないかと、高脂肪食により脂肪組織に蓄積する老化細胞について調べると、たった7日間 SGLT2 剤を服用させるだけで、老化した脂肪細胞を Senolysis 追い込むことを発見する。このとき、糖代謝は改善しているが、体重は変化しない。さらに、長く投与を続けると、かなり老化細胞を除去することができる。

これが Senolysis であることを確認するために、細胞周期が押さえられた細胞をジフテリアトキシンで積極的に殺す方法と比べると、ほぼ同じ効果があり、ジフテリアトキシンにより Senolysis を誘導すると SGLT2 阻害剤の効果がなくなる。

次にメカニズムを調べるために、まずインシュリンで同じ効果があるか調べると、血糖は低下させられても、Senolysisは起こらない。また、培養系で脂肪細胞にSGLT2を直接作用させても、Senolysisは誘導できないことから、全身レベルでの効果が脂肪細胞に影響していると結論している。

そして、メカニズムを理解できなかったが、SGLT2阻害剤を投与したマウスでは運動や低酸素で上昇して、AMPK 活性化する分子と知られるプリン代謝物 5-Aminoimidazole-4-carboxamide-1-β-D-ribofuranosyl(AICAR)の血中濃度が上昇し、これが AMPK を活性化することで Senolysis が誘導されることを示している。実際、SGLT2 阻害剤の代わりに AICAR を投与しても Senolysis が誘導できる。

最後に、高脂肪食以外の老化細胞蓄積が起こるケースとして知られている、APOEノックアウトマウスの動脈硬化巣で老化細胞を除去できること、さらにはラミンA変異による早老症など、異常な老化細胞蓄積を SGLT2 阻害剤が抑制できることを示している。

読んだ後まだまだ知りたいことが多いと感じた。最終エフェクターが AICAR としても、それが誘導されるプロセスをもっと知りたいし、AMPK が媒介しているならメトフォルミンでも同じ効果があるのか、そして何より正常食マウスでも他の臓器で Senolysis は起こるのかなどだ。

SGLT2 阻害の効果は糖尿病治療から始まって、今や心血管系、腎臓、そしてアルツハイマー病進行抑制まで多岐にわたっており、まだまだ研究の必要な分野だ。個人的には、腎臓でのグルコース再吸収阻害だけでは説明できないメカニズムがあるように感じている。そしてこの魔法の薬が、Senolysis 一般に効果があることを願いながら、誕生日を過ごしている。

  1. okazaki yoshihisa より:

    高脂肪食により脂肪組織二蓄積する老化細胞について調べると、たった7日間 SGLT2 剤を服用させるだけで、老化した脂肪細胞を Senolysis 追い込むことを発見する。
    imp.
    誕生日おめでとうございます。
    わたしも、フォシーガ愛用してます。
    アンチエイジングまで効能があるとは有り難いです!

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