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11月21日:ガンのエクソーム検査でガン免疫を予測する(11月19日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2014年11月21日
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これまで様々な機会に、敵を知って戦うという意味では、ガンのゲノム検査が現在最も頼りになる手段になることを紹介してきた。というのも、ガンが発生するためには、異常増殖を支えるドライバー遺伝子の活性型変異、増殖を止めようとするガン抑制遺伝子の欠損、細胞死を防ぐ遺伝子の抑制変異など幾つかの鍵となる遺伝子変異が必要だ。ゲノム解析によりこれらの変異を明らかすることで、うまくいくとガンの増殖だけを抑える薬剤を特定できるかもしれない。ただガンゲノム解析が進むことで、ほとんどのガンでガン化に直接関わる遺伝子変異だけでなく、数多くの遺伝子に突然変異が蓄積していることがわかっている。これらの変異のほとんどは細胞の増殖や生存とは無関係な偶然起こった中立的変異で、ガン化に関わる変異と区別する意味でパッセンジャー変異と呼ばれている。しかし細胞の増殖や生存に関係がなくても、このようなパッセンジャー変異は個々のガンを正常細胞から区別するための印となって、ガン細胞特異的な免疫反応の抗原として働く可能性がある。これを検討したのが今日紹介するスローンケッタリング研究所からの論文で、11月19日付のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Genetic basis for clinical response to CTLA-4 blockade in melanoma (悪性黒色腫に対するCTLA4抑制の臨床効果の遺伝的背景)」だ。タイトルでCTLA-4とあるのはT細胞が発現している免疫反応抑制因子で、通常は免疫反応が強すぎないように調節している。ただ、ガンに対する反応は強い方が望ましいはずだという考えに基づいて、この分子の機能を抑制する抗体をガン患者さんに投与してガン免疫を高める治療が行われている。同じような機能を持つ分子としてPD-1があり、これに対する抗体も高い効果が確認されている。ただ、この治療が成立するためには、ガン細胞に対する特異的免疫反応がまず誘導されている必要がある。このガン特異的免疫反応を誘導する抗原として働くという観点からガンに蓄積したパッセンジャー変異を調べたのがこの研究だ。まずCTLA4抗体が効いたガンと効かなかったガン細胞のたんぱく質に翻訳される遺伝子部分(エクソーム)の全塩基配列を解読し、突然変異と抗体の効果の相関を調べている。まず、一般的な傾向として突然変異の数が多いガンほどCTLA4抗体が効く。とはいえこれはあくまで傾向で突然変異が1000に近いのに全く抗体が効かない例も多い。突然変異が新しいガン抗原ができなければこれは当然のことだ。より高い精度でCTLA4抗体の効果を予測するため、次に突然変異の中から新しい抗原性獲得にむすびつく変異を発見するための解析ソフトを作成し、この方法で特定される「ネオペプチド:新しいペプチド」の発現と、CTLA4抗体の効果を比べると、ネオペプチドを発現しているガン患者さんの多くは長期生存できているのに、発現していないガンの患者さんではこの治療を行っても5年生存率は10−15ヶ月に限られるという結果だ。ネオペプチドとして特定されたペプチドに患者さんのT細胞が反応しているかどうかについても試験管内で確認している。まとめると、予想どおりCTLA4抗体が効くためにはまずガン免疫が成立している必要があり、ガン免疫が成立しているかどうか(すなわちCTLA4が効くかどうかを)ガンのエクソーム解析とネオペプチド発現を特定するソフトで予測ができるという結果だ。同じことは抗PD1抗体についても言えるはずだ。これまでガン免疫というと、効くかどうかやってみてから判断するという場合が多かった。しかし、ガンゲノムが解読できるおかげで、抗体治療の予後についても予測できるとなると、ガンのエクソーム検査はもっと真剣に早期導入を考える必要がある。それと同時に、この膨大なデータを解析してくれる人材の育成も重要だ。高価な抗体薬をただ気休めに使うことは問題だ。その意味で将来を示す極めて重要な研究だと思う。

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