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7月12日 孤島のマンモスから絶滅危惧種対策を学ぶ(6月27日 Cell オンライン掲載論文)

2024年7月12日
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タスマニアデビルの感染するガン細胞については何度も紹介してきたが(https://aasj.jp/news/watch/21958)、孤島に閉じ込められた固有種で、ガン細胞が感染できるぐらいMHCの多様性が低下し、さらに死骸をあさるという食行動を考えると、絶滅の危険は高いといえる。今年、タスマニアを旅行した時、野生のデビルには出会わなかったが、サンクチュアリーでの行動を見ていると、一緒に死骸をあさるというのが正解ではなく、餌の周りでともかく喧嘩をする。当然口腔のガンが感染しやすい性質だと納得した。絶滅を防ぐためには、ゲノムの定期的モニターが必要で、特に個体数が減り近親間交雑が増え、有害遺伝子変異が増加する、遺伝子変異のメルトダウンという現象の兆しをキャッチする必要がある。

絶滅危惧種を科学的に守るためには、絶滅した種についてのゲノム研究は有用だ。その意味で、全ゲノムが解析できるレベルで保存されているマンモスからは絶滅までの軌跡を多く学べる可能性がある。特に、1万年前に起こった水位上昇でユーラシア大陸から孤立したロシア領ウランゲリ島(タスマニアの10分の1の大きさ)に残されたマンモスは、人間が島に上陸するより前に絶滅していたこと、水位上昇で個体数が大きく低下したあと、5000年近く孤立して生存していたことから、絶滅を研究する重要な材料となっている。

今日紹介するスウェーデン自然史博物館からの論文は、ウランゲリ島に孤立する前後のマンモス21頭の全ゲノムを解析し、絶滅までに変異メルトダウン現象が起こっていないか調べた研究で、6月27日 Cellにオンライン掲載された。タイトルは「Temporal dynamics of woolly mammoth genome erosion prior to extinction(絶滅前のマンモスのゲノム崩壊の時間的ダイナミックス)」だ。

この研究では、ウランゲリ島で孤立したあとのゲノムから、特に近親間交雑の程度を知る同じ配列が両方の染色体で続いている Run of homozygocity (ROH) を調べ、ゲノム多様性の減少と、それに基づく個体数を推定している。

まず島に孤立した結果、当然個体数の急激な減少が起こる。この結果、近親間交雑でしか繁殖できなくなり、ROH の数が上昇する。そのときの多様性の変化から島に孤立したマンモスの個体数をシミュレーションすると、なんと多くて8頭。実際にはそれ以下の数から、島全体で2-300頭へと急速に回復したと推定される。すなわち、島に残った一つの群れから20世代ぐらいで一定数に達し、これを維持している。

驚くのは、ROHの上昇と多様性の低下のスピードがその後緩やかになっている点で、当初群れの中での近親間交雑が起こっていても、できるだけ遠い関係の間で交雑するという習性が自然に戻っていることを示している。

しかし免疫に関わるMHCの多様性は40%も低下し、そのまま維持されていることから、感染症などの抵抗性が低下していることは確かだ。

それでも孤立語5000年近く個体数を維持できた原因を調べると、生存に関わる遺伝子変異が集団から自然選択で排除される一方、影響の低い変異はそのまま維持されていることを明らかにしている。

結果は以上で、絶滅までの5000年、ウランゲリ島の環境変化がわからないと、この現象を説明するのは困難だが、個体数が減り、近親間交雑が増加、ROHが増加することで異常遺伝子が蓄積し、メルトダウンを起こすという単純なシナリオは必ずしも正しくなく、特にインパクトの大きな変異を個別に除去し続けることで、5000年という種の維持が可能であることを示している。

一方、2-300頭のマンモスが4000年前にランゲリ島から姿を決した原因がわかると、より面白いシナリオが現れてくると思う。例えば、多様性の減少したポピュレーションに急にストレスがかかって個体数が減ると、その後の回復が強く抑制されるように思うが、そのためには絶滅前の状況を示すゲノムが見つかる必要がある。しかし当分ロシア領での研究は難しいと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:個体数が減り、近親間交雑が増加、ROHが増加することで異常遺伝子が蓄積し、メルトダウンを起こすという単純なシナリオは必ずしも正しくない。
    2:特にインパクトの大きな変異を個別に除去し続けることで、5000年という種の維持が可能である。
    Imp:
    人口減少による、日本人絶滅説を最近よくみかけます。
    なんとかなるかもしれません。

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