ミクログリアが凝集したアミロイドβやシヌクレインを掃除してくれることは昔から知られており、この過程をコントロールすることは神経変性疾患の一つの鍵になると研究が進められている。ただミクログリアもマクロファージの一種なので、細胞外に排出された異常タンパク質を貪食して除去すると思っていた。パーキンソン病 (PD) のシヌクレインやアルツハイマー病の Tau の場合、細胞の死んだ後の掃除屋と言ったイメージを持っていた。
ところが今日紹介するルクセンブルグ・システム生物医学研究所からの論文は、ミクログリアが生きた神経細胞から異常シヌクレインを抜き取るだけでなく、元気なミトコンドリアを供給して神経細胞を助けるという驚く結果で、7月25日 Neuron にオンライン掲載された。タイトルは「Microglia rescue neurons from aggregate-induced neuronal dysfunction and death through tunneling nanotubes(ミクログリアは凝集タンパク質による神経異常と細胞死をナノチューブのトンネルを形成して助ける)」だ。
まず実験系だが、脳から取り出した神経細胞に αシヌクレインをプリオンのように取り込ませ、これによりミトコンドリアの酸化的リン酸化システムを中心に遺伝子発現変化が誘導され、最終的に細胞死が起こることを確認している。
次にこの培養系に脳から調整したミクログリアを加えると、神経細胞異常と細胞死を抑制することができるが、この培養を詳しく観察するとミクログリアが神経突起に数多くの微少な腕のような突起を伸ばし、細胞質と細胞質がつながったトンネルを形成していることを発見する。
このトンネルを通して凝集シヌクレインがミクログリアに取り込まれるのではないかと着想し、ラベルしたシヌクレインの輸送を調べると、期待通りトンネルを通ってシヌクレインが神経細胞からミクログリアにアクティブに輸送されているのが確認される。そして、このアクティブな輸送はRACシグナルを介する細胞内のアクチンの再構成により起こっていることを、様々な阻害剤を介する実験から明らかにする。
さらに実際の脳の中に凝集シヌクレインをロードした神経細胞を挿入し、この神経細胞の興奮を調べると、シヌクレインによって低下していた神経の興奮性が周りのミクログリアに助けられて正常化していることを確認している。
以上の結果でも驚くのだが、この研究ではミクログリアと神経細胞を共培養することで、凝集タンパク質により誘導されるミトコンドリア異常に起因する活性酸素の上昇が軽減されるメカニズムを追求し、凝集によるストレスが軽減されるだけでなく、同じトンネルを使ってミクログリアから神経細胞へ正常ミトコンドリアが移送されることを示している。
実際、こうして移送されるミトコンドリアが細胞の活性酸素を正常化していることを示すために、あらかじめミトコンドリア機能を抑制したミクログリアと共培養する実験を行い、細胞の正常化が移送されたミトコンドリアによることを明らかにしている。
最後にパーキンソン病のリスクになる LRRK2 遺伝子変異をもつミクログリアを競売要する実権で、この変異により凝集タンパク質の抜き取りが低下する一方、ミトコンドリアの移送は促進されることを示し、新しい視点からリスク遺伝子の解析を進める必要があることを示している。
結果は以上で、まさにミクログリアが神経細胞のサポートスタッフとして細胞内の新陳代謝に関わることになるが、実際にこの機構が存在するとしたら、神経細胞を保護する初期段階の話だと思う。とはいえ、この機構の意義についてはにわかには信じがたい。
ミクログリアが生きた神経細胞から異常シヌクレインを抜き取るだけでなく、元気なミトコンドリアを供給して神経細胞を助けるという驚く結果
imp.
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