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7月31日 血液感染菌の迅速診断法の開発(7月24日 Nature オンライン掲載論文)

2024年7月31日
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少し前に敗血症の疑いがあるとき、ケトン食に変更することで生存確率を高められるという論文を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/24850)、このときの対照群の20日目での生存率は6割と、抗生物質がある現在でも敗血症の致死率は高い。

現在敗血症治療で求められているのが、血液に感染している細菌の種類と抗生剤に対する抵抗性の診断で、現在のスタンダードの血液を培養する方法では、元々バクテリア数が少ないため培養に時間がかかる問題があった。しかも、全血培養の場合、治療に使った抗生物質や、血液細胞成分がそのまま持ち込まれ、培養の成功を阻害していた。

今日紹介する韓国ソウル国立大学からの論文は、血液中の細菌を生きたままキャプチャーして特定できる迅速診断法の開発で、7月24日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Blood culture-free ultra-rapid antimicrobial susceptibility testing(血液培養の必要のない超迅速バクテリア耐性試験)」だ。

この研究で開発されたのは、従来存在する方法の改良版で、全く新しいテクノロジーが開発されたわけではない。それでもNature が掲載を決めたのは何よりも敗血症で血液に感染している細菌を特定し、抗生物質の耐性試験を行う検査の重要性と、この検査の実現性が高いからだと思う。

この研究の最大のハイライトは、血中に存在するほとんどの細菌を β2glycoprotein I (βGL1) と呼ばれる、一種の抗菌物質によってキャプチャー可能であることに着目した点だ。このオリジナルな方法により、1ml中に数個しかない細菌を生きたまま βGL1 を結合させたナノビーズで補足することができる。

こうして補足した細菌は、血液に含まれる成分を除去したあと、純粋に培養できるので、半日あれば抗生物質の耐性試験可能な数を得ることができる。この耐性試験も、異なる抗生剤があらかじめ載せてあるマルチウェルプレートに、細菌をアガロースと培養し、増殖をイメージアナライザーで自動的に測定するためのシステムを確立し、血液採取から、培養、診断までなんと最速13時間でともかく判断可能なシステムを完成させている。培養は続けられるので、時間がたてばさらに正確な結果が出てくる。このシステムは、基本的にこれまでの FDA などの基準を満たす培養法を用いているので応用も早いと思う。現在の方法では、培養から耐性検査まで最低2日は必要であることを考えると、おおきな進歩といえる。

ただ、この研究はこれだけではなく、培養なしに遺伝子レベルで細菌種や薬剤耐性を検査する方法も同時に開発している。具体的には、生きたバクテリアを βGL1 でトラップした後、DNA を抽出、少し増幅した後、QmapID というバクテリアごとの標的 DNA を結合させ、バクテリアごとに標識したディスクと、調整した DNA をハイブリダイゼーションさせ、後は蛍光プローブを用いて結合している DNA の量や種類を示す方法になる。

これまで、細菌が分泌する DNA やタンパク質を PCR や抗体法で検出する試みはあったが、この研究のように生きた細菌をまずキャプチャーしてから DNA を用いて診断することで、信頼性が格段上昇し、バクテリアの種類だけでなく、薬剤耐性遺伝子のテストも同時に行うことができる。そして何よりも、培養が必要でないため、数時間で判定が可能になる。

以上が結果で、DNA を診断に用いる方は、培養法と最終的に一致した結果が出るとはいえ、認可には時間がかかるだろう。しかし、同じサンプルを用いて、まず数時間であらかじめの結果を得た上で、培養法の結果を待つことができれば、臨床的に意義は大きい。すなわち敗血症の疑い時点でとりあえず抗生剤が投与されるが、次の日には効果があると確定した抗生剤に変えることが可能になる。

この検査で適切な抗生剤を迅速に選ぶことができれば、ケトン食との組み合わせも面白そうだ。臨床に徹した面白い研究だ。

  1. okazaki yoshihisa より:

    この研究のように生きた細菌をまずキャプチャーしてから DNA を用いて診断することで、信頼性が格段上昇し、バクテリアの種類だけでなく、薬剤耐性遺伝子のテストも同時に行うことができる!
    imp,
    感染細菌を迅速に診断可能!
    翌日、確診できるのはgood!

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