CRISPR など、遺伝子編集を担うシステムは極めて多様だが、多くの細菌種が独自のシステムを開発していることだ。従って、解読された細菌のゲノムを探索するだけでも、多くの新しい遺伝子編集システムが見つかる。最近紹介した IS110 トランスポゾンを用いる系はその典型で(https://aasj.jp/news/watch/24732)、細菌ゲノムデータは宝の山であることは間違いない。
今日紹介するカリフォルニア大学バークレイ校、Doudnaさんの研究室からの論文は、この宝の山から、分子構造を指標に相同遺伝子を探索する方法を開発し、これまで Cas13 として知られている RNA を標的にした編集システムの先祖型を特定し、それが Cas13 とほぼ同じような活性を、試験管内及び細菌の中で示し、ファージウイルスに対する防御機構になっていることを示した研究で、8月2日号の Science に掲載された。タイトルは「Structure-guided discovery of ancestral CRISPR-Cas13 ribonucleases(構造の比較により発見された先祖型 CRISPR-Cas13 リボ核酸分解システム)」だ。
Doudnaさんの論文はいつもアイデアに満ちている。この研究では、アミノ酸やDNA配列からだけではなかなか関連が見つからない場合でも、構造を見ると相同性が見えることを利用する新しいタンパク質比較方法を用いて、Cas13 と同じ機能を持った分子をまず探索している。
具体的にはタンパク質の立体構造比較 LLM、α フォールドを用いて構造を決めた分子のデータベースを用いて、Cas13 と相同な分子を探索し、Cas13 と比べるとかなり小さな新しい Cas13 相同分子クラスターを発見する。そして、遺伝子配列の相同性から、新しく見つかった Cas13 が、Cas13 系統樹の最初に分岐した先祖型(Cas13an)であることを特定する。そして、Cas13 が Swit1 のような核酸分解酵素から進化してきたことも明らかにしている。このように、構造の比較から入ることで、配列比較からはわからなかった先祖型分子が発見でき、新しい分子系統理解が可能になる。
次に遺伝子構成を調べると今回特定された13種類の Cas13an のうち10種類では CRISPR アレーが3‘側に存在するが、ゲノムの解析から独立して存在していた RNA 分解システムが Cas9 のような2型CRISPRシステムの標的検出システムを拝借して進化していることも明らかになった。
その上で、Cas13 の機能と比較しながら、Cas13an の機能を調べると、スペーサーの特異性は低いものの、あとは現在の Cas13 とほぼ同じ機能を持つことを示している。すなわち、Cas13an とスペーサーと標的配列を一体化させたプラスミドを大腸菌に導入すると、配列特異的に外来の RNA を分解する。実際、ファージ標的認識配列を組み合わせると、そのファージに対する抵抗力が1000倍に増える。
この活性は、CRISPR アレーから転写される Pre-CRISPR と呼ばれる RNA から標的の配列を切り出し、この切り出した RNA 配列が認識する外来 RNA に結合して切断すると同時に、周りに存在する無関係な RNA もトランスに切断する Cas13 とほぼ同じだが、それぞれの機能を担う分子構造を調べると、Cas13an では全てが一つの分子領域にまとまっており、それぞれの機能が違うドメインに分かれた現在使われている Cas13 とくらべ、小型のタンパク質で同じ機能が発揮でき、将来様々なベクターに組み込んで利用できることを示している。
以上が結果で、構造ベースの分子比較により、我々が見落としてきた多くの新しい分子機能を発見できること、その結果これまで以上に使いやすい遺伝子編集システムが開発できる可能性を示したさすがと思わせる研究だ。
個人的には、進化によりせっかくコンパクトにまとめられていた機能が、異なるドメインへと分裂していくのも面白い。構造をベースにした分子系統学は、配列情報と自然選択という選択アルゴリズムをつなぐことができる。
現在使われているCas13とくらべ、小型のタンパク質で同じ機能が発揮でき、将来様々なベクターに組み込んで利用できる可能性あり!
Imp:
遺伝子治療もベクター搭載量がボトルネックになる可能性あり。
搭載遺伝子は小さい程よさそう。