セマグルタイドをはじめとするGLP-1アナログは、2型糖尿病だけでなく一般的な肥満にも安全で効果があることが発表されると(https://aasj.jp/news/watch/19826)、少しでも痩せたいという多くの心を捉え、疾患治療の枠を超えて一般に提供されている。もちろん医師の診察が必要な処方薬なのだが、オンライン診療の衣を着て、診察なしに薬剤を提供することが広く行われるようになっているようで、製造元の製薬会社も困惑している。例えば Google でセマグルタイドと検索すると、多くのオンライン診療サイトの中で堂々トップに来るのが elife というサイトで、日本から GLF-1 アゴニストを外国にまで送っているようだ。
このように医師のコントロールを離れて治療薬が拡大するのはゆゆしき事態といえるのだが、病気の定義を広げて治療対象にしてきた医学側にも責任があると思う。その意味で今日紹介するミネソタ大学からの論文は、12歳以下の小児の肥満に GLP-1 阻害剤を用いて治療する治験研究で、小児の肥満にもこの治療が効くことはわかるが、ここまで治療対象を広げていいのか心配になる研究だ。タイトルは「Liraglutide for Children 6 to <12 Years of Age with Obesity — A Randomized Trial(6歳から12歳までの肥満の小児に対する Liraglutaide ― 無作為化治験)」だ。
GLP-1 アナログを使用する年齢を下げられないかという治験はかなり以前から進んでおり、2020年3月、同じグループが12歳以上18歳までの肥満児を対象に Liraglutide 治験を行い、やめるとリバウンドはあるが効果が見られることを、同じ The New England Journal of Medicine(382:2117,2020)に発表しており、この延長でさらに対象年齢を下げたのがこの研究になる。
毎日皮下注射を自分で行うというのは小児には大変な作業だと思うが、semaglutide のような長期効果(1週間に一回の注射でいい)があると、いざというときに薬の作用を避けることができないことから、作用が持続しない Liraglutide を用いているのだと思う。最初 0.6mgから徐々に容量を上げて1日3mg を56週間続け BMI の変化を最も重要な指標として追跡している。
この治験では、全ての肥満児に薬剤治療だけでなく、生活指導も行い、最終的には薬に頼らない改善を目指しており、成人治験とは違った配慮が見られる。
当然と言えば当然の結果で、最終時点で BMI が 5.8%低下し、正常児の平均に近づくことができている。一方で、コントロールグループは生活指導の効果はあるが、それでも BMI は開始時と比べて 1.6%上昇していることを考えると、トータルで 7%近い改善が見られたことになる。
残念ながらリバウンドも早い。投与をやめてから半年後には BMI は 0.8%低下と戻ってしまっている。それでもコントロール群は 6.7%のゲインと大きく上昇しているので、良くなったと判断はできるが、長期に追跡しないとわからない。
これも当然のことながら嘔吐などの消化器の副作用はほとんどの子供で発生し、最終的に10%がドロップアウトしている。
血圧や、HbA1c の改善がある程度見られているが、治療前の数値は特に病的ではないので、これが将来の様々な生活習慣病リスクを下げるかどうかはわからない。
以上が結果で、確かに効果はあるという結論だが、糖尿病など明確な問題がない肥満児を対象にこの薬剤を本当に使っていいのか、読んだ後疑問に思った。まず BMI だけでどこまで将来を予測できるのか、さらにリバウンドがあるからとずっと続けていいのかなど素朴な疑問が生まれる。現在さらに新しい対象をリクルートして治験は拡大しているようだが、おそらく一番大事なのはさらに長期に追跡して、小児期の治療効果を検証することではないかと思う。最終的に子供の肥満の治療として認めるのは、その結果が明らかになるずっと先でもいいのではと思う。
医学は治療の対象を拡大して今や肥満がその対象になった。ただ、一般の人の頭の中では病気治療とダイエットの区別がつかないという混乱が生じてしまっている。この混乱が子供と父兄にまで拡大し、オンライン診療で GLP-1 アナログが処方されることは避ける必要がある。
12歳以下の小児の肥満にGLP-1阻害剤を用いて治療する治験研究で、小児の肥満にもこの治療が効くことはわかるが、ここまで治療対象を広げていいのか心配になる研究だ。
Imp:
そもそも、肥満は病気なのか?
世間を見渡すと、フクヨかな体型のヒトの方が、高齢になってもシャキシャキしてたりしますし。。