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9月28日  IL-4:遅れてきた CAR-T 活性化因子(9月24日 Nature オンライン掲載論文)

2024年9月28日
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今日紹介するのは、スイス EPFL 、米国ペンシルバニア大学、クリーブランドクリニックなどが共同で9月24日 Nature に発表した論文だが、同じ号に CAR-T 治療を行った患者さんの予後調査を行い、導入した CAR-T 自体が IL-4 の作用を受けて2型に変化している場合に長期予後がいいことを明らかにした論文が、このグループから発表されている。

今日紹介する論文は、この結果を受けて、では IL-4 自体を CAR-T とともに使うことで、CAR-T の疲弊を抑えガンをより効率的に制御できないか調べた研究で、タイトルは「The type 2 cytokine Fc–IL-4 revitalizes exhausted CD8 + T cells against cancer(2型サイトカイン Fc-IL-4 は疲弊したガンに対する CD8 T細胞を再活性化する)」だ。

もう一つの論文でマウスを用いた研究も行って、2型サイトカインが CAR-T のキラー活性を促進していることを明らかにしているので、この研究ではストレートに CAR-T 治療の際 IL-4 を主要局所に注射して効果を調べる実験へと進んでいる。ただ、IL-4 の半減期が短いことから、免疫グロブリンの Fc を結合させて、体内で長期間作用できる IL-4 を実験に用いている。

効果は絶大で、腫瘍を植えた後、CAR-T 投与と同じ時から主要局所に2日ごと Fc-IL-4 を投与すると、局所の CAR-T の浸潤が高まり、CAR-T だけでは除去できなかったさまざまな腫瘍を完全に除去することができる。

免疫不全マウスに人間のガンと人間の CAR-T を投与する実験でも同じように効果を確かめることができる。

通常の CAR-T はサブセットの区別なく T細胞にキメラ抗原受容体遺伝子を導入するので、これまで CD8キラー細胞ではなく、これを助けるヘルパー集団に Fc-IL-4 が作用する可能性もあるが、さまざまな実験で、CD8T細胞に直接 Fc-IL-4 が働きかけること、特に抗原と反応して機能が抑制された細胞が IL-4 受容体を強く発現しており、Fc-IL-4 刺激により、BCL2 など生存シグナが再活性化され、キラー細胞として長期間働くことができることを明らかにした。

そして最後に、Fc-IL-4 が疲弊しかけた CAR-T を再活性化する機構を調べ、通常の IL-4 シグナルを伝達する STAT6 や STAT5 ではなく、インシュリン受容体と同じように PI3K-AKT を解するシグナルを通して、解糖系を活性化することで、疲弊しかけた CAR-T細胞を活性化していることを発見する。

結果は以上で、IL-4 という意外なサイトカインが CAR-T 増強因子としてクローズアップされた。アトピー治療に IL-4 を抑えることは行われているが、サイトカイン治療としては、IL-4 は遅れてきたサイトカインだと思うが、明日からでも臨床試験を始める意義は大きい(おそらくすでに進められているとは思うが)。現在 CAR-T 治療は固形ガンには有効性が低いこと、白血病に対しても半数以上で効果が短期で終わってしまう問題がある。その意味で、もう一つの論文で示された、CAR-T 生産課程で IL-4 で刺激すること、そして CAR-T 治療と共に腫瘍組織に Fc-IL-4 を注射する2種類の方法は試してほしいと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:CD8T細胞に直接Fc-IL-4が働きかける。
    2:特に抗原と反応して機能が抑制された細胞がIL-4受容体を強く発現している。
    3:Fc-IL-4刺激により、BCL2など生存シグナが再活性化され、キラー細胞として長期間働くことができる。
    Imp:
    腫瘍組織にFc-IL-4をデリバリーする治療。
    IL-2の場合、抗体でデリバーする治験は、今までのところ上手くいってないようです。
    IL-4には毒性はないのでしょうか?

    1. nishikawa より:

      アトピーに抗体治療が奏功するぐらいですから、局所投与でもアレルギーが起こると思いますが、CAR-T生産時に使うこと、あるいは組織持続性を高めた方法などが考えられるでしょう。

  2. YH より:

    Fc-IL-4+抗PD-(L)1抗体も効果増強に役立つ可能性はどうでしょうか?

    1. nishikawa より:

      IL-4受容体を発現している2型キラーはPD-L1を発現しているので、効果はあると思います。

  3. YH より:

    2023年12月8日の抗IL-4抗体が肺がんに対する免疫治療を高めるはIL-4シグナル軸をブロックすることで顆粒球系の役割を抑えて免疫チェックポイント阻害剤の作用増強、一見不思議と思われた今回の論文は視点が異なり、今回CAR-Tに対してシグナルを入れることで機能を高めた。免疫は多面的だなと思う。

  4. okazaki yoshihisa より:

    リガンド・受容体・シグナル伝達と複雑怪奇なCytokine。種差も大きいのと感じます。
    IL2、IL4、IL7、IL9、IL15、IL21では、γc鎖が、共通の受容体になるようです。

    この論文のIL4の作用を伝達するのは、IL4Rαなのか?IL4γcなのか?気になります。

    IL4γcなら、アゴニストはIL2でもよいのではないでしょうか?

    Cytokine を薬にしようと思うと本当に厄介です。

    やはり、合成生物学・タンパク質工学を駆使し、人工Cytokine ・人工Cytokine シグナル伝達系を創造するのがよさそうな気がします。

    1. nishikawa より:

      実験がわかりにくいのですが、まずIL-4受容体のうちAKTにつながるのはαの方です。また、STAT6 KOでは効果の低下は少ないと言いましたが、実際には少し反応が低下しています。従って、αを介してSTAT6とAKT経路が活性化されると考えられます。従って、CAR-Tを作成するときに、cγで増殖させながら、IL4α経路を活性化させるというのが良さそうです。

  5. okazaki yoshihisa より:

    ご教授ありがとうございます。

    IL-4Rα経路ですか。

    研究競争が激しい領域ですね。

    2022年Nature誌
    『Potentiating adoptive cell therapy using synthetic IL-9 receptors』
    では、

    キメラ合成「IL-2Rβ-ECD–IL-9R-ICD(o9R)」を介してシグナルを伝達するT細胞(o9R T細胞)は,STAT1,STAT3,STAT5を同時に活性化する点で他とは異なり,幹細胞様記憶T細胞やエフェクターT細胞の特徴を持つ研究がされておりました。

    臨床でBest in classになるのは、どれなのか??

    はたまた、全く別の方法があるのか?

    大変興味を惹かれる問題です。

  6. okazaki yoshihisa より:

    度々すみません。

    この論文と同じ時期に、正反対の結論の論文がpublishされておりました。

    Cytokineの複雑怪奇な性質に由来するのか?
    生きた薬の複雑怪奇な性質に由来するのか?

    悩ましいと感じます。

    Nature Communications
    1 2 September 2024
    『IL-4 drives exhaustion of CD8+ CART cells』

    1. nishikawa より:

      面白いですね。見ておきます。

      1. nishikawa より:

        ざっと見ましたが、試験管内実験ではNature communicationの方は抗原刺激とともに、一方Natureの方はIL-4だけと培養しています。あと、in vivo実験では、IL-4抗体による全身ブロック実験と、Fc-IL4を腫瘍局所投与なので、最終的に実験条件の差かもしれません。ただ、Natureの方はそのもう一つの論文で、長期効果が見られた例でIL-4など2型サイトカインが上昇していることを示しています。

  7. okazaki yoshihisa より:

    ご多忙中、お返事ありがとうございます。

    相手は、複雑怪奇なサイトカイン、細胞、生体のようで、今後の展開を注視します。

    1. nishikawa より:

      今日紹介した腸管への作用も含めて、IL-4の理解は一筋縄ではいきません。

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