ゲノムデータから日本人集団の共通性と多様性を解析する研究は、日本人の古代ゲノムデータが少ないこと、従来の考古学と古代ゲノム研究の共同が進まないこと、さらには皇国史観などゲノム研究を阻む要因などから、かなり遅れている気がする。ただ、この遅れの最大の要因は、人類学をゲノムに基づいて推し進めていく若い人材が少ないことだろう。しかし、外国で研鑽を積んだ新しい世代が育っているようで、これまですでに2編の論文を紹介したダブリン大学・金沢大学の中込さんなどには期待を寄せている。
今日紹介する論文はこの中込さんと大阪大学の岡田さんのグループが、日本のバイオバンクに登録された日本人の GWAS データを、縄文人ゲノム、北東アジア人ゲノム、東アジア人ゲノムの3系統から見直した論文で、個人的には初めて日本人のゲノム構成のイメージを得ることができた面白い研究で、11月12日 NatureCommunication にオンライン掲載された。タイトルは「Genetic legacy of ancient hunter-gatherer Jomon in Japanese populations(古代縄文の狩猟採取民の日本人集団への遺産)」だ。オープンアクセスの論文なので是非元の論文を読んでほしいと思う。
中込さんたちは2021年の論文(https://aasj.jp/news/watch/17944)で、日本人集団を、南からの縄文人と農耕を導入した北東アジア人、そして古墳時代の東アジアの3系統から見ると、集団構成がよく理解できることを示していた。
この研究では、これをもとに、いくつかのバイオバンクのゲノムデータを解析し直し日本人集団の構造を明らかにしている。
いろいろな解析が行われているが、やはり圧巻は最初の図で、北海道、東北、関東、中部、近畿、九州、そして沖縄と、今でも明確な集団の違いを認めることができる。以前英国人について行われた2015年の論文を紹介して、現代のように人が移動する時代にも各地方のゲノム構成が異なっていることに驚いたが(https://aasj.jp/news/watch/3088)、まさに日本でも同じだと認識した。
さらに驚いたのは、縄文のゲノム割合の多い沖縄奄美地方のゲノム構成で、宮古島、沖縄本島、沖永良部、与論と、そして奄美と、各島々で沖縄本島を中心に異なるゲノム構成を持つ集団が維持されていることだ。特に与論島で縄文ゲノムの比率が最も高いのは興味を引く。どのような交流の結果なのか、今後考古学との共同が進むと面白い分野になると思う。
いずれにせよ、日本人の集団を考えるときに、縄文ゲノムからの遺産が重要な要因であることは明らかで、例えば北海道のアイヌと琉球に縄文が分かれていった歴史や、特に交雑がはっきりしている集団の歴史など、是非今後進めてほしいと思う。
この研究では、GWAS の SNP の中から縄文人の標識に使える多型を132種類特定し、そのうえで現代人の健康と明確に相関する多型を探索し、いくつかの多型を総合した縄文人のスコアが現代人の BMI と明確な相関を示すことを明らかにしている。ただ、これらの多型は、集団の遺伝的アドバンテージになるとして選択されたことが明らかで、BMI と関わるようになったのは、我々が飽食の時代に生きるようになってからのことになる。
こうして発見した多型が確かに BMI と相関することをUK バイオバンクのデータまで使って詳しく解析しおり実力を感じるが、日本人の我々にとってやはりこの研究のハイライトは図1に集約している。この研究に参加した研究者は国立科学博物館の篠田さん世代と比べても新しいダイナミズムが感じられ、今後ますます面白い日本の歴史を明らかにして行ってくれることを期待する。
宮古島、沖縄本島、沖永良部、与論と、そして奄美と、各島々で沖縄本島を中心に異なるゲノム構成を持つ集団が維持されている!
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ガラパゴスの再現実験のようです。