他の動物と比べたとき、長い成長期と、長い生殖期後の生が人間の特徴で、生物論的だけでなく、文化論的にも研究が続いている。文化論的な研究で最も有名なのはフランスの歴史学者フリップ・アリエスの「子供の誕生」で、子供を小さな大人として見ていた中世から子供を子供として育てる近代への歴史を分析した。とはいっても、人類誕生以来人間の子供を授乳期を超えてケアする必要があり、種としての大きな負担を背負っても脳をはじめとする人間の特徴を獲得したことが人類の繁栄をもたらしたことを物語る。
今日紹介するスイスチューリッヒ大学とフランスグルノーブルのヨーロッパシンクロトロン施設からの論文は、グルジアで発掘された約180万年前の直立原人ドマニシ原人について、若くして死亡した個体の歯をシンクロトロンで分析して、サルや我々人間歯の成長と比較した研究で、11月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Dental evidence for extended growth in early Homo from Dmanisi(ドマニシ原人も長い成長期を持っていたことが歯の分析からわかる)」だ。
ドマニシ原人はおそらくヨーロッパでは最も古いエレクトスにあたり、185-177万年前に生息していたと推察される。多くの完全な頭蓋が出土し、例えば歯が全くないのに生きていた老人や今日紹介する成長期の子供など、人類の社会構造を知る重要な遺跡と考えられている。
この研究で選ばれたのは歯が完全に残っている11歳の子供で、永久歯が生え替わったあと成長が終わる前に死亡しており、歯が成長して乳歯と置き換わり成長しながら使用される歴史を調べることができる。もちろん貴重な化石なので歯を傷つけることはできない。代わりに、大規模シンクロトロンからの放射光を用いた立体断層分析で全ての歯の内部を調べている。
方法の詳細は割愛するが、この検査により生後すぐに形成される歯冠を起点に成長期に起こる縞やストレスによる線など、実際には週単位での成長の様子が分析できる。その結果、ドマニシ原人の歯全体の成長軌跡は類人猿とは異なりほとんど我々と一致する。一方、これまで分析されたアウストラピテクスの歯の軌跡はチンパンジーやボノボに近い。
ただ、乳歯に生え替わるまでの成長は人間と比べると早く、我々より早く永久歯に置き換わり、大体12-13.5歳で歯の成長が止まったと考えられる。また我々と同じで、臼歯の成長が最も遅い。いずれにせよ、生後すぐに成長が鈍化し始める類人猿とは異なり5歳まで緩やかに成長が続き、その後成長が遅くなる人間型の軌跡が確認された。
以上が結果で、歯からも直立原人から様々な人類の特徴が獲得されたことの新しい証拠になる。おそらく食物を石器で処理するようになったことも重要な要因だったと考えられるが、ドマニシ原人はまだオルドワン型の石器を使っており、また人間の歯形が残っている動物の骨が見つかっていることから、人間の食が大きく変化する時期に当たると考えられる。特に歯が完全に抜け落ちている老人の生存が確認されていることから、今後歯の研究と生活に関する考古学を統合して調査が進むことで、エレクトスがどのように人間の特徴を獲得したのか、またそれが人類進化にどのようなインパクトを及ぼしたのか、などが明らかになるのではと期待される。
生後すぐに成長が鈍化し始める類人猿とは異なり、5歳まで緩やかに成長が続き、その後成長が遅くなる、人間型の軌跡が確認された。
imp.
生涯続く親子の絆とか、ヒトのヒトたる所以が潜んでいそう!