今日は最近気になった臨床研究をいくつか紹介する。
まずは、米国・サウスカロライナ大学から11月27日 JAMA に発表された論文で、25歳以下の女性の子宮頸がんの死亡率調べたものだ。米国では子宮頸がんワクチンが2006年に導入され、2022年以降12%づつ25歳以下の子宮頸がんの発生率が低下していることがすでに報告されている。この研究ではさらに死亡率について、ワクチンの効果が見られる以前からの推移を調べた研究になる。死亡率はワクチン接種が始まる前から、コンスタントに低下する傾向にあったが、2013年から急に大きな低下が見られ21年まで続いている。すなわちワクチン効果が10年以内に死亡率として明らかになっている。しかし米国でも Covid-19 パンデミックで接種率が2年間低下し、またその後も接種率の上昇が鈍いことから、この影響が2030年ぐらいから死亡率の上昇としてみられることが懸念される。
次の英国・University College Londonからの論文は、文献調査に基づいてアルツハイマー病 (AD) の Aβ に対する抗体治療を行った際の副作用として考えられる脳萎縮について議論した研究で The Lancet Neurology の10月号に発表された。結論的には、抗体治療で Aβ が除去率が高い薬剤ほど脳萎縮が認められるが、症状レベルでは臨床的に問題が起こっていないことを示している。特に効果が高い薬剤ほど全体が萎縮し、脳室が拡大することがわかる。従って、脳萎縮に関してはアミロイド除去による疑似萎縮と考え、副作用として捉える必要がないと結論している。メカニズムに関しては、蓄積された Aβ が除去される効果、アミロイドに対する炎症反応の低下、アミロイドによる脳の浮腫の軽減などが考えられるが、これについては病理解剖をベースにした詳しい研究が必要だと結論している。いずれにしても、長期にわたる追跡調査が必要だ。
3編目は、米国スタンフォード大学を中心とするグループが11月29日 Nature に発表した論文で、主に小児の脳幹部に起こるびまん性正中グリオーマお対する CAR-T 治療だ。この疾患は平均生存率が11ヶ月と極めて悪性の腫瘍で、ほとんど治療法がない。この中でヒストンH3 の変異が認められるグループは disialoganglioside (GD2) を強く発現しており、これを標的とした抗体を用いてキメラT細胞受容体を構築し、これを患者さんのT細胞に導入する CAR-T 治療を行っている。
リンパ球除去処理のあと、まず静脈注射を行い効果が見られるケースは、脳室内注射を繰り返す治療を行っている。基本的にはコントロールをとらない治験だが、2例は脳室内移植を受けずになくなっているが、残りの患者さんは1-3ヶ月ごとに注射を続けている。13人の患者さんのうち、4例では腫瘍の高度の縮小が見られ、20ヶ月以上の生存が可能になっている。そのうち一人は完全に腫瘍が消失し、あと3例でも縮小が見られている。症状レベルでは9例で改善が見られたことから成功と判断し、今後はリンパ球除去処理なしに最初から脳室内投与を行う新しい治験が進行しているようだ。副作用については、投与後全員に免疫反応による炎症が発生するが、これ自体は予測可能でコントロール可能であると結論している。しかし30ヶ月を超えて生存している2人以外は亡くなっており、この差の理由の検討も今後の課題だと思う。
最後は筋肉に浸潤した膀胱ガンに対する腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイント治療の組み合わせの第一相治験で、11月9日 Nature Medicine にオンライン掲載された。
これは Rb1 シグナルの機能異常が見られる腫瘍でのみ増殖できるアデノウイルスに、GM-CSF遺伝子を組み込んで、腫瘍を溶解しながら局所的にガンに対する免疫を高め、さらに抗PD-1抗体で免疫機能を高め、腫瘍溶解によるガン抗原を用いてガン特異的免疫を高める治療だ。これを手術前に行っており、手術後免疫機能を高めることができたか組織学的に調べることができる。
面白いのは治療法で、膀胱内にウイルスを詰めた溶液を注入し、1時間排尿を抑制して膀胱内でウイルスを感染させている。第一相試験なので副作用に重点が置かれているが、21人中17人がプレアジュバント治療を終えている。効果だが、治療を中断した3例に加えて、2例が途中で死亡、最終的に17例が手術まで進んでいる。
組織的には T細胞の浸潤が広く認められ、これが腫瘍縮小と強く相関している。さらに免疫効果の指標となる、ガン組織内に形成されるリンパ節用構造も得られることから、進行したシスプラチンに反応性がない膀胱ガンの治療として可能性が高い。
以上のように、腫瘍溶解だけで腫瘍を制御するのではなく、抗原を湧出させて免疫反応を誘導する方法は今後も期待できる。
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最後は筋肉に浸潤した膀胱ガンに対する腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイント治療の組み合わせの第一相治験で、11月9日Nature Medicineにオンライン掲載された。 これはRb1シグナルの機能異常が見られる腫瘍でのみ増殖できるアデノウイルスに、GM-CSF遺伝子を組み込んで、腫瘍を溶解しながら局所的にガンに対する免疫を高め、さらに抗PD-1抗体で免疫機能を高め、腫瘍溶解によるガン抗原を用いてガン特異的免疫を高める治療だ。これを手術前に行っており、手術後免疫機能を高めることができたか組織学的に調べることができる。 面白いのは治療法で、膀胱内にウイルスを詰めた溶液を注入し、1時間排尿を抑制して膀胱内でウイルスを感染させている。第一相試験なので副作用に重点が置かれているが、20人中17人がプレアジュバント治療を終えている。効果だが、治療を中断した3例に加えて、2例が途中で死亡、最終的に17例が手術まで進んでいる。 組織的にはT細胞の浸潤が広く認められ、これが腫瘍縮小と強く相関している。さらに免疫効果の指標となる、ガン組織内に形成されるリンパ節用構造も得られることから、進行したシスプラチンに反応性がない膀胱ガンの治療として可能性が高い。 以上のように、腫瘍溶解だけで腫瘍を制御するのではなく、抗原を湧出させて免疫反応を誘導する方法は今後も期待できる。
13人の患者さんのうち、4例では腫瘍の高度の縮小が見られ、20ヶ月以上の生存が可能になっている。
そのうち一人は完全に腫瘍が消失し、あと3例でも縮小が見られている。
Imp:
固形腫瘍にも効き始めた!
Cytokine(IL2、IL15)を搭載する方法も有望に思えます。