太古の昔、ネアンデルタール人と我々現生人類が同じ場所に生きていた時代、交雑が行われ、そのとき流入したネアンデルタールゲノムは我々のゲノム中に維持されていることは、21世紀ゲノム研究から生まれた大発見の一つだ。ただ、交雑は限られた場所と時代に1-2波で起こったと考えられているが、ほとんどは現代人のゲノムとネアンデルタール人ゲノムを比較する研究により決められている。しかし、流入したネアンデルタールゲノムの運命を知るためには、交雑時期から現代までの古代人ゲノム内のネアンデルタールゲノムを調べる必要がある。
今日紹介する Paevo さんにより設立されたこの分野を担うドイツ・ライプツィヒマックスプランク研究所と米国のロチェスター大学、カリフォルニア大学バークレー校から共同で発表された論文は、45000年から2200年までネアンデルタールゲノム流入後の現生人類のDNAに残るネアンデルタールゲノムを調べ、流入後のネアンデルタールゲノムの運命を詳しく調べた研究で、12月13日 Science に掲載された。タイトルは「Neanderthal ancestry through time: Insights from genomes of ancient and present-day humans(ネアンデルタール人祖先を現代と古代の原生人類ゲノムから探す)」だ。
基本的にはインフォーマティックスの研究といえ、世界全土から現生人類ゲノムを集め、その中のネアンデルタールゲノムを特定して、いつゲノム流入が起こったのか、また流入したゲノムが我々の中で維持された進化的理由を探っている。
これまでネアンデルタール人と現生人類の交流は2波に渡って起こったとされていた。しかし、ヨーロッパからアジアに至るまでの古代現生人類ゲノム解析から、おそらく交雑は5万年から6千年ぐらいの間に起こり、このあと現生人類は多様化しながら世界各地に分布したことがわかる。
面白いのは、現代人で見るとアジア人はヨーロッパ人よりネアンデルタールゲノムの比率が高い。一方、古代原生人ではこの差が見られないことから、おそらくアジアでは別の交雑機会があった可能性がある。さらにアジアの古代ゲノムを解析する必要がある。
さらに面白いのは、今回解析した中で最も古い45000年前の現生人類のネアンデルタールゲノムは、その後の現生人類にのこるネアンデルタールゲノムとははっきり異なっており、6000年という長い期間に起こった交雑の中の一部のネアンデルタールゲノムだけが生き残っていると言える。
こうして導入されたゲノムは、流入が止まると自然に薄まっていく。しかし、現代の人間に残っているのは全ネアンデルタールゲノムの6割程度で、これが薄まって人類に散らばって存在している。これは散らばっている遺伝子を集めたときの数字で、一人一人の個人に残るネアンデルタールゲノムはたかだか2%程度だ。もちろん時代を遡るとこの割合は増加するが、交雑後100世代で急速に各個人のネアンデルタールゲノム比率は低下しており、3万年前にはすでに3−6%になっている。
それぞれの遺伝子に着目して進化的に選択され残りやすい遺伝子を調べると、これまで報告されていたような選択的に残りやすい遺伝子リストが形成できる。一方で、4割以上のネアンデルタールゲノムは現生人類では消失しており、自然選択されたことがわかる。
残った遺伝子の例として特に6割以上の現代人に残る遺伝子として神経シグナルや発達に関わる TANC1、 BAZ2B、そしてこの論文では皮膚の色素形成に関わるとしてBNC2遺伝子があげられ、これらがネアンデルタールから受け継いだ重要な遺産として我々が使っていることを示している。
この最後のデータを見て驚いたのは、彼らが皮膚の色素に関わるとして上げている BNC2 は、まさに11月6日紹介した Friedman の論文で、新しく摂食反射をコントロールすることが指摘された分子だ。従って、BNC2 によって危ないものを食べないという神経回路のおかげで我々が生き延びたとする方が、皮膚の色より面白そうだ。今後の研究に期待したい。
皮膚の色素に関わるとして上げている BNC2 は、まさに11月6日紹介した Friedman の論文で、新しく摂食反射をコントロールすることが指摘された分子でもあった。
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日曜大工です。