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1月7日 片方の対立遺伝子に選択的な遺伝子発現は病気の表現を複雑にする(1月1日 Nature オンライン掲載論文)

2025年1月7日
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性染色体以外の染色体は常染色体と呼ばれ、基本的には2本ずつ存在している。教科書的には、両方の常染色体上の遺伝子は同じように発現すると考える。しかし、何らかのきっかけで片方の染色体だけから遺伝子発現が見られることがあり、これを monoallelic (単一対立遺伝子性) 遺伝子発現と呼んでいる。Monoallelic 遺伝子発現 (MGE) が起こると細胞レベルの遺伝形式が複雑になり、片方に遺伝子異常がある場合その表現が複雑になる。

今日紹介するコロンビア大学からの論文は、免疫不全に関わる突然変異を MGE の視点で見直した研究で、驚く結果ではないが臨床的には重要な研究と言える。タイトルは「Monoallelic expression can govern penetrance of inborn errors of immunity(Monoallelicな遺伝子発現が遺伝的免疫疾患の浸透率を決めている)」だ。

このグループは長く遺伝性の免疫不全の診療と研究に関わっていた。その中で、遺伝子変異がはっきりしているのに症状の出方に個人差が多いことを 、MGE の視点で説明できるのではと着想した。そこで、正常ボランティアから T細胞のクローンを樹立し、ゲノムと RNAを 比較することで MGE を検出する系を確立し、MGR がどのぐらいの頻度で起こっているのかをまず調べている。

その結果、4−5%の遺伝子で MGE が見られることから、MGE が決して希な現象でないこと、さらに遺伝的免疫不全に関わる遺伝子でその頻度が高いことを確認している。

当然 MGE はエピジェネティックな機構で起こると考えられるので、ヒストン修飾や DNA メチル化に関わる遺伝子をT細胞クローンで抑制したとき、MGE が変化するかを調べ、ヒストンの H3K27 メチル化に関わる JMJD3 及び DNA メチル化の維持に関わる DNMT1 が遺伝子発現のバイアスを変化させるケースがあることを示し、おそらく様々なエピジェネティックな機構で MGE が起こることを明らかにしている。

後は、このグループの臨床例から MGE が以下に病気の表現系を複雑にしているかを調べている。実際、MGE が起こる免疫に関わる遺伝子リストを見て驚くのは、JAK1、HOD2、STAT1 といった免疫シグナルに関わる遺伝子が含まれている点だ。

この研究では PLCγ2、JAK1、STAT1 遺伝子変異の症例について考察している。

まず同じ PLCγ2 変異を片方の染色体に持っている患者さんの B細胞を調べ、抗体の量が多い患者さんでは B細胞が正常遺伝子を使っている率が高く、逆に抗体量の少ない患者さんでは、突然変異を持つ染色体からの遺伝子発現が高いことを確認している。

このような差が生まれやすいのは特に gain of function (GOF) と呼ばれるドミナントタイプの変異で、例えば JAK1-GOF 変異では自己免疫やアトピーになる。そこで、おなじ JAK1-GOF 変異を持つ患者さんで発症している人とほとんど正常の人を比べると、病気が出ない人は正常遺伝子の方が選択的に発現している一方、症状のある人では MGE はなく両方の染色体から遺伝子が発現していた。

同じように、STAT1-GOF 変異ではカンジダ症など免疫不全が起こるが、変異遺伝子を持つのに発症していないケースでは、正常遺伝子の選択的発現が起こっている。

以上が主な結果で、遺伝子診断で異常が見られても発症しないケースが高い頻度で存在することを示している。また、このような症例は PCR で診断が可能なので、ゲノムだけでなく、RNA も調べることで臨床に生かしていけることを示している。言われてみると当然の結果だが、臨床では忘れがちな問題をクローズアップさせた実践的な研究だと思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    MGE が起こる免疫に関わる遺伝子リストを見て驚くのは、JAK1、HOD2、STAT1 といった免疫シグナルに関わる遺伝子が含まれている
    imp.
    こんな仕組みが常染色体発現に潜んでいたとは!

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