これから世界を待ち受ける反科学の波が、温室ガスに対するグローバルな取り組みに強いブレーキをかけるだろう。こんな時こそ、科学は様々な可能性を示し続ける必要がある。
今日紹介するカリフォルニア大学デービス校からの論文は、材料さえうまく調達できれば建物や道路を建設することが炭酸ガス削減に繋がる可能性を示した研究で、1月10日号の Science に掲載された。タイトルは、「Building materials could store more than 16 billion tonnes of CO 2 annually(建築材料は16億トンの炭酸ガスを毎年吸収できる可能性がある)」だ。
全く分野外なので考えたこともなかったが、この論文を読んで少し調べてみると、我々がセメントなどに使っている材料には石灰、すなわち酸化カルシウムが含まれており、これは長い期間かけて炭酸ガスを吸収し炭酸カルシウムに変化する。すなわち、建物や道路が炭酸ガスを吸収してくれるという願ってもない可能性が存在する。
この研究は、世界の建築や道路を炭酸ガス吸収性の材料に変換することができること、そしてそれを実現すると、場合によっては現在排出される炭酸ガスの50%を吸収することすら可能であることを計算している。
まず、どのような材料が炭酸ガス吸収の可能性があるかを示している。最も吸収力が高いのは、生物材料を何らかの形で使った材料で、木材の家に限らず、例えばバイオマスを利用したレンガなどがあるが、生産量を考えると大きくない。
一方、セメントを炭酸化できる材料にしたり鉄鋼の高炉からでるスラグなどを炭酸ガスに晒して作成された炭酸塩をベースにした砂利やがれきは吸収力は高くないものの生産量が多いため、全体の吸収力としては大きく期待できると主張している。
全ての可能性を実際に行った場合、2100年までに吸収可能な炭酸ガスの量は1200ギガトンと、現在の目標を大きく上回ると計算している。
結果は以上で、論文ではこれを実現する具体的な方策とその難しさについてデータはあまり示さず細かい議論を行っている。例えば、アスファルトを作るときにコールタールの油を塗っているのを見るが、これをバイオマスからの油に変えることもできるらしい。また、空気にさらされていない場所からどのようにセメントの材料を調達すればいいのかなど、かなり詳しい提案が示されている。
その上で、実際にそのような取り組みを行っている会社について、名前を挙げて紹介している。例えばバイオファイバーを用いたレンガ製造会社や、鉄鋼のスラグと炭酸ガスで炭酸化した材料を作る会社、さらにはバイオオイルをアスファルトに使う会社などが紹介され、実際にオランダでリグニンを用いたアスファルトを引いた道路が作られたことも紹介している。
繰り返すが専門外なので評価は難しいが、行政のマニフェストとしても使えるぐらいうまく書かれた論文だと思う。炭酸ガス削減については、化石燃料の消費という点のみに焦点が当てられ、実際建築についても炭酸ガス排出量だけが問題になるが、工夫すれば大きな吸収力があるという指摘は、真剣に考えた方がいい。ロサンゼルスだけでなく、今トランプ支持者以外の世界中の人が、温暖化の猛威を感じている。
世界の建築や道路を炭酸ガス吸収性の材料に変換することができること、そしてそれを実現すると、場合によっては現在排出される炭酸ガスの50%を吸収することすら可能である!
Imp:
バイオ素材は、ありうる選択肢だと思います。
合成生物学技術が展開可能な領域だと思います。