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1月23日 ホストと腸内細菌の相互作用をプロテオームから調べる(1月20日 Cell オンライン掲載論文)

2025年1月23日
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DNAシークエンサーの発展とともに発展した領域の一つは腸内細菌叢の研究で、最初はリボゾームなど一部の配列のみを使って調べられていた細菌叢も、今や全ゲノムレベルで配列を決め、さらにはほぼ完全なゲノムを再構成して、腸内で起こっている変化を捉えることが可能になっている。

これに対し、今日紹介するイスラエルワイズマン研究所からの論文は、質量分析器を用いるペプチド解析の結果を腸内のゲノム解析と対応させて解釈し直した後、特定されたタンパク質の種類をベースに腸内の変化の把握を目指した研究で、1月20日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Metagenome-informed metaproteomics of the human gut microbiome, host, and dietary exposome uncovers signatures of health and inflammatory bowel disease(メタゲノム情報を用いたメタタンパク質解析を用いて、健康あるいは炎症性腸疾患のホスト、細菌叢、そして食事由来タンパク質を網羅的に解析する)」だ。

網羅的タンパク質解析(プロテオーム)の技術が進んでも、あまり腸内細菌叢の解析に用いられなかったのは、タンパク質の分解が把握しきれないことと得られたプロテオームデータの由来を特定することが難しかったことによる。

この問題を、腸内の内容物あるいは便のDNA解析とプロテオーム解析を統合した Metagenome-informed metaproteomics (MIM) を行うことで、存在するタンパク質を由来も含めて徹底的に解析し、メタゲノムに変わる指標を確立しようとしたのがこの研究だ。要するに、解析は一手間も二手間も多いが、タンパク質を用いることで、ホスト由来タンパク質、細菌由来タンパク質、そして食事に含まれるタンパク質まで特定することでゲノムとは異なる現象を把握できると、大変な実験を行っている。

まず、存在する細菌叢や、ホストの反応、そして食べた食物を MIM で正確に把握できるか、マウスやヒトを用いて徹底的に検証している。細菌叢は、メタゲノム情報が存在することで、ほぼ正確にタンパク質の由来を調べることができる。もちろん、種類が限られるホスト側のタンパク質は問題なく特定できる。また、食べ物については動植物のデータベースから特定することができる。この結果、マウスでは2656種類のバクテリア由来タンパク質、631種類のホスト由来タンパク質、そして23種類の食物由来タンパク質を特定できる。

プロテオームを用いると、胃から十二指腸、そして小腸を経て大腸へと、検出できるタンパク質の多様性が拡大していくことが見事にわかるが、便になってしまうと、タンパク質での多様性の検討は難しくなる。とはいえ、何を食べたかなどは便のプロテオーム解析からかなり正確に特定できる。

では、ここまで手間をかけて、従来のゲノム解析以上に何が明らかになったのか?

例えば腸炎が起こった場合、食べ物のタンパク質の量が消化不良を反映するだけでなく、炎症がどのレベルにあるかも食べ物の消化の程度を調べられるのでわかる。また、詳細は省くが、ゲノム=すなわち細菌の種類だけではわからない、細菌の活動状況の変化を捉えることができる。例えば、炎症が始まると、バクテリアも環境変化に対応するが、これを特定することができる。

さらに、ホストの反応を同時に調べることで細菌叢の変化との相互作用のメカニズムまで知ることができる。例えば抗菌ペプチドの変化と細菌叢の変化は相関する。また、メタゲノムと参照しながらプロテオームを行ったおかげで、新しい抗菌ペプチドを特定することができている。

この研究から生まれた重要な発見の一つは、炎症性の変化に伴う腸上皮の変化を把握できることで重要なマーカーをいくつか特定していることだ。他にも、ELISAで検出できる腸炎マーカーの発見も報告されている。

これまで困難とされてきたプロテオームにチャレンジすることで、細菌叢研究の新しい領域が生まれたように思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    ゲノム=すなわち細菌の種類だけではわからない、細菌の活動状況の変化を捉えることができる。例えば、炎症が始まると、バクテリアも環境変化に対応するが、これを特定することができる。
    imp.
    プロテオームの威力!

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