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1月28日 身体の血液分布を調べるPET で炎症経過を探る(1月22日 Nature オンライン掲載論文)

2025年1月28日
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非侵襲的に細胞の局在や活動を調べる方法がPETで、これに用いる半減期の短い様々なアイソトープが開発されてきた。現在主に使われているのはフッ素18 をラベルに用いた deoxyglucose の取り込みで、これにより細胞の代謝活性がわかるため、活性の高いガンや炎症部位を特定するのに使われている。ただ、身体の中には何百種類もの細胞が存在するため、これらの状態を調べるためには、それぞれの細胞が発現する細胞表面マーカーに対する抗体を利用できると、PET の利用範囲は大きく広がる。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、血液細胞が発現しているCD45に対する抗体を用いて全身の血液分布を調べると局所炎症の発生と経過を正確に捉えることができることを示した研究で、1月22日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「CD45-PET is a robust, non-invasive tool for imaging inflammation(CD45-PET は炎症のイメージングを可能にする安定性が高い、非侵襲的ツールになる)」だ。

これまでも抗体をアイソトープに結合させたプローブは開発されていると思うが、この研究ではまずマウスCD45 を認識する H鎖抗体・ナノボディーにキレーターを結合させ、これにジリコニウム89 を結合させている。そして、この構造にポリエチレングリコールを加えることで、腎臓での吸収を抑えるという工夫をしている。

このプローブを注射して得られる画像は、予想以上にリンパ球特異的と言える。最初、体中に血液が分布しているので全身が染まるのではと思ったが、イメージングされてきたのは見事に、脾臓、リンパ節、そして骨髄で、肝臓などは予想以上に低い。すなわちまとまって CD45細胞が存在する場所が選択的に染まる。その意味で、リンパ節は強く染まる。しかし、腸管のパイエル板などは殆ど染まってこない。これはおそらく大きさの問題だろう。

次に肺や腸管で炎症を誘導してイメージングを行うと、肺への血液細胞の集合を見事にに捉えることに成功している。同じことは FDG を用いた代謝PET でもできるのだが、肺の場合 LPS の量を変化させて肺の病変の強さを変化させたとき、CD45PET ではこの炎症の程度の差を捉えることができるのに、FDGではできない。

同じように消化管に炎症を起こすデキストランスルフェーとを摂取させる系でも、炎症の強さをCD45-PET は捉えるのに成功している。さらに重要なことは、肺でも大腸でも炎症が強くなると体重が低下するが、CD45-PETから計算される重症度は見事に体重の低下と比例している。

最後に、ヒトCD45 に対する H鎖と C鎖の一部を持つ CD45抗体を用いて同じようにラベルしている。この抗体は体内での半減期が短いことから、同じ抗体でも PET には使いやすい。これを用いて、ヒト造血系を移植したヒト化マウスのイメージングを行うと、リンパ節などの染まる程度は低いが、ヒト細胞が移動し居着く脾臓を特異的染められることを示している。

もちろん、炎症で血管透過性が上がっただけでプローブが検出されると言った心配はないこと、さらに常に FDG と比較して、CD45-PET の方が感度や特異性が高いことも示している。

結果は以上で、後は遙かに大きなヒトを用いた治験を進める必要がある。例えば関節リューマチや、臓器説く的自己免疫疾患などは重要な標的になる。さらには 1型糖尿病で β細胞をアタックするリンパ球の浸潤などが捉えられたら、臨床的価値は計り知れない。期待したい。

  1. okazaki yoshihisa より:

    マウスCD45 を認識する H鎖抗体・ナノボディーにキレーターを結合させ、これにジリコニウム89 を結合させている。そして、この構造にポリエチレングリコールを加える!
    Imp:
    核医学、ペプチド工学と共に注目領域に浮上中。
    セラノスティック

    https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/shows/2050167/?fbclid=IwY2xjawIFG2pleHRuA2FlbQIxMQABHRizFg-nL474TdShZ-sRvHgsBwaAdyMXXcnY8vgCDeY8lvt0wVwLzS5uxg_aem_0C5cmNtzb4VQk47W-i9jXw

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